これは遠い遠い、西の果てにある国の昔話
その国には10年に1度、国王が選んだ国民の中で最も善良であった者に与えられる手紙がある。
その手紙を受け取った者は、一生遊んで暮らせるほどの大金と歴代の善良国民の名が刻まれた石碑に名を刻み、永遠に名前を語り継がれることになる。
皆がその手紙を受け取りたいが為に善良な行いをするので、その国はとても治安が良く、争いもなく、皆が助け合う国になっていた。
1人の男が国王の手紙を届けにとあるアパートへ尋ねてきた。
『この建物に、ジョセフという男が住んでいるであろう。 その者を呼んでいただきたい。』
男はアパートの管理人である白髪の老婆に事情を説明し、ジョセフという男性の所在を聞いた。
『ジョセフさんねぇ、、確かに居りますよ』と老婆の返事に対して食い気味に男が
『なら、早く呼んで頂きたい』と腕を組みながら片足でパタパタと地面を叩きながら言う。
『どのジョセフさんですか?』
老婆が口を手で隠し困ったように言う。
『へ??』
男が思わずマヌケな声を出す。
『ここのアパートには、ジョセフさんという名前の方が13人居まして、、、まぁ、割と良くある名前ですし、、』
と、諦めた様子の老婆に
『待て待て! このアパートは何部屋あるんだ??』
男が慌てた様子で目の前に建つアパートに指を差しながら言う。
『13部屋ですよ』
『ジョセフしか住んでないのかここは!!』
大声で男が叫ぶ。
『たまたまですからねぇ、、こればっかりは、、、まぁ、私も同じ名前のジョセフさんから申し込みが5人ぐらい続いたあたりでちょっとジョセフさんだけを集めたところもありますけど、、』
自分には罪は無いと言い切れないからなのか、下を俯きながら話す老婆。
『最後ちょっと楽しくなってるじゃないか』
と、怪訝そうに言う男に老婆は、あっ!と手を叩きながら
『手紙にアパートの名前が書いてあったんですよね? 部屋番号は書いてないんですか?』と聞く。
『確かに部屋番号は書いてあるが、、』
『何号室ですか?? それを言って頂ければすぐにわかりますのに』
『 ・・・』
男が黙ってしまった。
『どうしたんですか?』
不思議そうに老婆が聞く。
『字が汚くて読めないんだ・・・特に数字が』
バツが悪そうに男が呟く。
そして、それを聞いた老婆が震えながら言う。
『その手紙を書いた人って..』
『あぁ、国王だ、だから確認もできないんだ!だから困っているんだ!! 俺にどうしろと!国王に字が汚くて読めないんで教えてくださいなんて聞けというのか!!』
男がついに激昂してしまった。
果たしてこの手紙の行方は13人のどのジョセフの元へ!!
2/18/2025, 12:45:34 PM