NoName

Open App

私と彼女は仲が良かったと思う。
いつも隣にいた訳ではないけれど、気付けば一緒にいることが多かった。
今日も約束していたのではなく、たまたま放課後教室に2人で残っていた。
宿題をしたり、先生の愚痴を言ったり。
特に喧嘩していたとは思わない。
ただ気付けば私は彼女を傷つけていたらしい。
今、彼女は私の首に両手をかけている。
力は、まぁ、このまま締め続けたら死ぬだろうなってくらいには強い。
謝ろうにも呼吸が苦しくて言葉にならないし、何より何を謝れば良いのかも分からない。
ダメかもしれないな。
そう思った瞬間、突然彼女が手の力を緩めた。
急に空気を取り込んだので咳が止まらない。
呼吸がこんなに難しいなんて知らなかった。
「ごめん」
謝ったのは彼女だった。
まだ呼吸は落ち着かないし、咳も止まらない。
そんな中で何とか彼女に目を向けた。
彼女は真っ直ぐ私を見ていた。
謝罪の言葉を述べたのは本当に彼女だろうか?
自分が先ほど聞いたのは本当に謝罪だっただろうか?
疑問を抱くほど、彼女は澄んだ瞳をしていた。
そうしてようやく、私は彼女と仲が良かったと勘違いしていたことに気付いた。

7/30/2022, 12:04:20 PM