『君を手放した罰』
夏祭りは嫌いだ。
風で回る露天の風車、屋台のライトに照らされてテカテカと光るりんご飴、当時のヒーローアニメの絵が描かれた綿あめの袋。楽しそうな人々と相反する物哀しさが神社に向かう石畳を歩くたびに蘇る。いやでも毎年思い起こしてしまう。
あれから、僕のそばに君はいない。
あの年の夏祭りまでは僕らは幸せだった。幸せすぎて怖かったほど順調だった。僕らはあの年の秋から同棲することが決まっていて、同棲を通り越して将来のことを語り合った。僕は君への片想いが高じた独占欲丸出しで、きっと君も困惑したと思うけどそれでもそんな僕が好きだと言ってくれた。矢絣の浴衣を着た君は大人っぽくて、特別可愛くて。こんな素敵な彼女がいるんだと胸を張る気持ちもあって、僕は有頂天になっていたんだ。
何故あのとき無理やり君を奪い返さなかったんだろう。偶然会った元彼を前に固まった君の瞳を何故遮らなかったのだろうか。
僕が君を五年間かけて見ていたように、君もあの男を何年も想っていたのは分かっていた。
片思いの苦しさを知っていたが故に理解のある男を演じた滑稽な僕は今になってもあの時の選択の罰を受けている。
あれから十年以上経つ。それでも僕は君のことばかり。いや、そうじゃない。君の面影を追い求めているそんな自分に酔っているかもしれない。
君の笑顔はもう思い出せない。思い出せるのは、あの男に指を絡ませて歩く君の後ろ姿。
風が吹いて風車が一斉に回るあの風景を僕はまだ忘れることができない。
#遠い日の記憶
7/17/2024, 10:32:04 AM