『善悪』
汚水が流れる橋の下には
家や職を持たない貧民層が暮らしている。
そこに住む一人の老人に、ニヤついた笑みを
浮かべる若者たちが押し寄せてきた。
手には木材で作られた棍棒が握られている。
「お前さんたち、一体何のようじゃ」
「社会のゴミを掃除しに来ました〜w」
猛然と老人に襲いかかる若者たち。
武器を持った若者に老人が敵うはずもない。
彼らは頭を両手で押さえたままうずくまる
老人を取り囲み、笑いながら暴行を加えた。
「やめとくれ…お願いじゃから」
「うるせーよジジイ。お前らみたいなのはな、
生きてるだけで害悪なんだよ!」
弱々しい声を上げながら老人は懇願するが、
彼らが攻撃の手を緩めることはない。
やがて老人は動かなくなった。
「え、嘘、死んじゃった?」
「とっととずらかろうぜ」
興味が失せたようにその場を後にする若者たちと
ボロボロの姿のまま取り残される老人。
暫くすると、一人の騎士がやってきた。
白銀の鎧を身に纏い、騎士団の紋章が
刺繍された真紅のマントが風ではためく。
この場で行われた惨劇を想像した騎士は眉を顰め、
倒れている老人の傍まで駆け寄り屈みこんだ。
「すまない、オズワルド。貴殿に
この様な事を頼んで…」
「いいえ、貴重な体験をさせていただきました」
老人のしわがれた声は若い男の声に変わり、
紫色の瞳が妖しく光った。
老人に扮した魔術師は懐から
水晶玉を取り出して騎士に渡した。
そこには先程の若者たちが今までしてきた
犯行の一部始終が収められている。
あのクズ共は我々と同じ貴族の生まれ。
彼らの親は、子どもが働いた悪行の数々を揉み消し、
民から搾り取った税で私腹を肥やす輩だ。
民たちの生活はよくなるどころか
上がり続ける税により苦しくなる一方。
腐りきった連中が権力を持ち、
守るべき民たちに圧政を強いる。
この悪しき現状を変えねばならない。
我々のより善き未来のために────
4/26/2024, 5:00:12 PM