かたいなか

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「明日は明日の風が吹く」。
某ピンク玉の座右の銘にして、代表的なエンディング曲だそうです。
英題は「A New Wind for Tomorrow」。
お題に無理やりこじつけるなら、「新しく吹き渡る風は明日のため」とでも訳すのでしょう。

と、いうハナシは置いといて、
今回の物語のはじまり、はじまり。

「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
異世界から異世界へ渡航許可を受理したり、
滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが他の世界に流れ着いて悪さをせぬよう回収したり、
要するに、世界の円滑な運行をサポートする仕事を、真面目にやっておったのでした。

今回のおはなしのお題回収役は、管理局内の空間にまつわる仕事をする「環境整備部」の局員で、
なんと、「こっち」の世界の奥多摩地方出身。
局内では、「奥多摩君」と呼ばれています。

都内のブラック企業に比べれば、福利厚生も給料も、やりがいも格別に高待遇だったので、
東京に帰らず、管理局員用の寮で、有意義に厨二局員ライフを謳歌しておった
のですが。

「今日ばかりは、さすがに東京に戻らないと」
そうです。「今日」です。
奥多摩君が昔々に友達と遊び倒したファミキューブのゲームソフト、ケービーのスカイライドのほぼほぼ続編、ケービーのスカイライズが、
20年の時を経て、発売されるのです。

ギリギリ昭和生まれの奥多摩君、昔々を思います。
ああ、嗚呼、友人と共に待ち合わせをして、
当時はグルチャなんて便利な物は無く、
ネットで回線を繋げることもなく、
誰かの家に集まって、ゲームをしたものでした。

ポップなキャラとガッチガチの場外乱闘、
友情ブレイキングなレースゲーム、
吹き渡る風は友人の殴打の風圧だったか、
吹き渡る風はタイムアタックの高速運転だったか。

ああ、あぁ、嗚呼。
既に生活拠点が東京どころか、日本でもなく、
なんなら地球ですらない奥多摩君ですが、
どうしても、もう一度、今現代の現行機のクオリティーで懐かしの感動を味わいたいのです。

なお20年前一緒に吹き渡る風を感じながらゲームを楽しんだ仲間とは完全に疎遠な奥多摩君です。
管理局には奥多摩君の他にも、地球から仕事に来ている局員は居るハズですが、
奥多摩君、彼等を見つけて一緒に吹き渡りゲーをできるのでしょうか??

…——「なに、ゲーム?」
東京でゲームの新作を買う前に、吹き渡る風の奥多摩君、同じ環境整備部に所属するビジネスネーム・キリンさんのところへ行きました。
キリンさん、キリンさん。地球から仕事に来てるゲーム好きな局員を知りませんか。

「ふむ。ゲーム好きな局員は知らんが」
キリンさん、なかなかのイケボで言いました。
「滝行仲間の地球人なら知っているぞ。なんでも天狗という種族の末裔らしい」

アッハイ、すいません、結構です。
水圧によって風吹き渡る、滝行に連行されかけた奥多摩君。全速力で逃げました。

…——「ゲーム?」
キリンさんから逃げ切った奥多摩君、ちょうど経理部まで辿り着いたので、ビジネスネーム・ロシアンブルーさんに聞いてみました。
ロシアンブルーさん、ロシアンブルーさん。地球から仕事に来てるゲーム好きな局員を知りませんか。

「地球から仕事に来てる局員なら、経理部の仕事柄で何人か知ってるけど、」
ロシアンブルー、遠くを見ながら言いました。
「趣味までは把握してないわねぇ……」

ところで向こうからキリンが余裕の足取りであなたにロックオンしてるけど、何かあったの。
ロシアンブルーのその一言で、衝撃が走り渡った奥多摩君。更に遠くへダッシュしました。

…——「なに。地球出身の?ゲームが好きな?」
キリンさんから更に逃げた奥多摩君、最後は管理局のエントランスロビーに到着。
受付の窓口でコンコン子狐にジャーキーを献上している、ビジネスネーム・コリーさんに聞きました。
コリーさん、コリーさん。地球から仕事に来てるゲーム好きな局員を知りませんか。

「どうだろうな?私はあまり、局員の出身や出自に詳しくないのだが、 ふむ、ふむ……」
コリーも遠くを見ながら、言いました。

ロシアンブルーとの一件で、奥多摩君、コリーが見ている視線の先を、おそるおそる確認しました。
「あっ」
奥多摩君は全力で、また駆け出しました。
結果として管理局のエントランスから出た奥多摩君に、吹き渡る風は少しだけ、涼しいものでした。

明日は明日の風が吹き渡ります。
今日は今日の風に、立ち向かわねば、ならぬのです。

11/20/2025, 9:56:44 AM