G14

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 GW終盤の五月五日。
 成績の悪い自分だけに課せられた学校の課題を済ませ、その憂さ晴らしに親友の沙都子を誘って遊びに繰り出した。
 沙都子はお金持ちだが、庶民の遊びに興味津々なので、二つ返事でやってきた。
 二人(+沙都子の護衛)で、たくさんの店を冷やかしながら練り歩き、小休止でコンビニに入る。
 そこは偶然にも、私が沙都子と初めて会ったコンビニだった。

「沙都子、覚えてる? 私たちはここで出会ったんだよね」
「えっ…… ええ、そうだったわね、百合子」
「……あれ、覚えてない感じ?」
「う、正直あまり覚えていないわ」
 クールな沙都子が、珍しく慌てている。
 慌てている理由は、私にとって好ましい理由じゃなかったけど。
 というか普通にショック。

 私が地味にダメージを受けている間も、沙都子は思い出そうと、うーんと首をひねって悩んでいた。
「なんとなく、百合子が泣いていたことは覚えているんだけど……」
「泣いてないし」
 全く失礼な。
 いい歳した私が泣くわけないでしょ。

「私はよく覚えているよ。初めて会ったとき、沙都子の目がめっちゃ冷たくて、泣きそうになったの」
「やっぱり泣いているじゃない」
「泣く寸前までいったけど、泣いてないから!」
「ほとんど泣いてるじゃないの。 実質泣いているのと同じよ」
「だから泣いてないってば!」

「あの時一緒に、アイスクリームは友情の証って言ったじゃん」
「思い出したわ。 確か百合子がその時、一人で叫んでアイスクリーム落として泣いたのよね?」
「な、泣いてないわい」
 沙都子の言葉に、封じられた記憶がよみがえろうとする。
 なんだか本当に泣いた気がするが、きっと記憶違いである、うん。

「本当に覚えてないの?
 あの時、沙都子が財布落としたこと」
「そうだったわ。 私が財布の入ったカバンを落として、それを百合子が拾ったのよね」
「そうそう」
「それで一割寄越せって、言い出したのよね?」
「……そんなこと、言ったっけなあ……」
「あなたの記憶もだいぶ怪しいわね」
 いや、さすがに初対面の人間にそんなこと言わない、はず。

「百合子は覚えてないの?
 私からせしめたお金でアイスクリーム買ったでしょ?」
「あっ」
 思い出した。

 あの時、財布を握り締めてコンビニに行ったら、お金が入ってなくて、どうしようと思ったときに、沙都子の財布を拾ったんだ。
 それで一割寄越せって言ったら、沙都子が冷たい目をして、それで私が泣いて――いや泣きそうになったんだっけ。
 ……何やってんだ、昔の私。

「まあ、あの時の事は感謝しているわ。カバンには連絡用のスマホも入っていたから」
「それは何より……」
「それで、学校で再開して付き纏うようになって、今に至る。
 で、合ってるわよね?」
「付き纏うって、人聞きの悪い……」
「その時はそう思ったもの。 実際お金目当てで近づく人間は多いから」
「ふーん、沙都子も苦労してるんだなあ」
 お金持ちにはお金持ちで悩みがあるんだろう。

「でも、こうして遊びに付き合ってくれてるってことは、私は『お金目当ての人間』じゃないって思ってるくれてるんだよね」
「そうね。 『お金目当ての人間』では無かったわね」
「なんか毒があるんだけど」
「あら、あなたが今までに壊した、私の家の私物の被害総額…… 知りたい?」
「ノーコメント」
 それ以上いったら泣きます。
 話を誤魔化そう。

「でもさ、私と出逢ってよかったでしょ」
「あなたと出逢わなかったら、もう少し平和な日常が送れたと思ってるわ」
「ふむ、刺激的な毎日を送れているってことかな」
「あなたのプラス思考は尊敬に値するわね」
 沙都子は呆れたようにため息を吐く、と思ったら急に私の目を見る。

「ところで、あなたはどうなの?」
「何が?」
「百合子は私と出逢って良かった?って聞いてるの」
「えっ」
 まさか聞かれると思わなかったので、返答に窮する。

「私は言ったわよ。次は百合子の番――」
「あっ、あんまり長居するとお店の人に迷惑だから、早く買い物を済ませよう」
「あっ、待ちなさい」
 沙都子の追及を逃れるため、適当なお菓子を持ってレジに向かう。

 『沙都子と出逢ってどうか?』だって。
 そんなの決まってる。

「あら、お金が足りないみたいね。
 しょうがないから私が出してあげる」
 ほくそ笑む沙都子が、私の目の前に高額紙幣を出す。
 確かに助かったけれど、私は絶対に言わない。

 私は沙都子と出逢って、本当に毎日が楽しいと思ってる。
 でもさ。
 そんなの恥ずかしい事、言えるわけないじゃんか。

5/6/2024, 1:48:30 PM