記憶が脳に定着するのは、大体3〜4歳頃からだと言われる。反対に、人間が死ぬのはだいたい80歳すぎが平均である。
つまり、人間の記憶というものは、ざっくり言って75年分の歴史が詰まっているということになる。
(認知症の方は、ここでは横に置いておく)
人間、それだけ生きればその分だけ、忘れたい記憶も積もっていくものである。
ただし、当然、忘れたくない記憶も募っていく。
そうして僕を紡いできた幾千幾万もの瞬間が、きっと、僕を僕のまま引っ付いて剥がさない強力な糊として機能している。
いつかの記憶の波に翻弄されて、「思い出せない」と「忘れたい」の感情の狭間に漂っている僕。人間の設計図のどこかにきっとある、想い出という名の器官。
無意識と意識を頻繁に飛び交いながら、やがて僕らのデータは色褪せ、或いは美しく変色し、引き出しの中に丁寧にしまわれてゆくのだ。
それはきっと、僕らの人生のエンドロールの中で、早送りの映画の一コマに過ぎないのだろう。
在りもしない記憶に煩悶し、うろたえる僕を置いていくようにして、時代は移り、変わってゆく。
そうして、いつか、人工知能が僕らに成り代わり、僕らのように歩き、話し、笑い、愛を叫ぶ日が来るのかもしれない。
いや、きっと来るだろう。
それでも、僕たちという灯火は絶対に消えない。いつまでも、いつまでも狂おしいほど懐かしい想い出の灯りに照らされている限り。
11/18/2024, 2:56:15 PM