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「最初から決まってた」

「お疲れ」

そう言って一緒に会議室を出てきたのは同期のなかでも一番のライバル。今日の勝者。もうすでに秘密裏に動き出したプロジェクトを手続き上の公平さを保つためだけに開かれた今回のプレゼン。俺ともう一人選ばれた奴との三人で争われた。

「お疲れ」

内心の諸々を隠したまま、さりげなく悔しさをにじませる。もう一人は憮然としたまま俺たちを無視して足早に去る。

「アイツのこと、フォローよろしくね」

「まかせとけ。おめでとう。すごくよかったよ」

それは本心だった。いつも彼に勝てる気がしなかった。頑張れよと声をかけてからもう一人を追いかけた。

「一緒に飲みに行こう」
「別に慰めてくれなくてもいいですから」
「慰めるも何も、俺も同じ立場なんだけど?」
「先輩は悔しくないんですか?」
「悔しくないよ。最初からわかってたし」
「わかってたから、いいかげんなプレゼンしたですよね?」
「俺のがいいかげんに思えたなら、アイツの方が出来が良かったってことだろ?負けは負けだ」

平然としているが、本当は自分に言い聞かせてもいる。出来レースと知っていたからと言い訳するつもりもない。実力の差だ。何をしても奴には敵わない。

「同期の俺が敵わないのに、後輩が勝てると思うなよ。つべこべ言わずにつきあえ」

こうして諸々飲み込んで今日を終える。そうだな、こんなだから敵わない、わかっているけどさ。


8/8/2024, 8:00:45 AM