薄墨

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「言葉はいらない、ただ・・・」

「おまっ、言葉はいらないって最終兵器みたいな言葉放っといて、この期に及んで、言葉でなんか行動希望すんのかよ!」

「お前マジそういうとこだぞお前!!さんざギザ野郎ってイジられんのそういうとこだぞ!」

「るっせえ!てめーらがなんかいい感じに女性に聞いてもらえるような希望の伝え方を教えろって言うから、恥を忍んで言ったんだろうが!感謝しろ感謝!!」

「こんなんで本当に効くのかよ」

「俺たちには微塵も刺さらねーぞ」

(それが効くんだよなぁ…)
隣の席で騒ぐ男子学生たちを尻目に、私はスマホのトークアプリ画面に目を落とす。

そこには、“深刻な顔で、『言葉はいらない、ただ・・・連絡先登録するの、俺だけにしてくれ。行動で示して欲しいんだ』って来ててさー、もうそんなん消すしかないよねー。…ってわけでグループ抜けます!”と、いうメッセージが届いている。

返信をする気も起きず、電源ボタンを押す。
冷たい紅茶を啜る。
隣では相変わらず、男子学生たちがギャアギャアはしゃぎながら、お昼時のカフェを楽しんでいる。

(言い方や聞き心地の良さに惑わされずに内容をきちんと聞き取るスキルって、大切なスキルだよなあ…)
そんなことを思いながら、デザートのミニケーキをつつく。

言葉のいらないおひとり様カフェ。
気楽で良いものだ。
氷が、からり、と音を立てる。
紅茶の中でゆっくりと氷が溶けていく。

カフェの、穏やかな昼下がりは、ゆっくりと過ぎてゆく。

8/29/2024, 1:06:10 PM