終わらせないで。
背を向けて列車に乗り込む主人公と、呼びかけるヒロイン。無情にも発車ベルは鳴り響き、主人公の乗った列車は遠くの街へと走り出す。果たして二人は再会できるのか――というところで、次回第12話、最終回の予告が流れ出す。
けれど、私の最終回は永遠にやって来ない。
決してドラマが終わらないというわけではない。私の意志で、終わらせないのだ。
高校生の頃大好きだった、人気のドラマ。当時大きな話題を呼んで、ドラマ内で使われたピンクのボールペンは全国で売り切れてしまったし、最終話で主人公の放ったらしい台詞は流行語大賞にまで選ばれた。世間は一通りこのドラマで盛り上がり、次第に次の話題へと移っていった。
しかし私は何となく寂しくて、放送から数日経っても数週間経っても、最終話を見る勇気が起きなかった。そのうちに他の番組と間違えられて、家族に録画を消されてしまった。奇跡的に消し忘れられていた第11話だけが、私の家のテレビに残った。
実家を出て一人暮らしを始めても、私は第11話の録画をDVDにダビングして持ち出した。それから社会人になった今でも、ふと思いついた時に繰り返し見ている。
あまりに何度も見すぎて、展開どころか台詞さえ一言一句覚えてしまった。
そんなに何度も見て飽きないのか、と思う人もいるかもしれない。たしかに、どちらかといえば私はこのドラマに飽きているのだろう。
けれど、飽きるというのはこれ以上いらないほど満ち足りているということで、足りずにぽっかり穴があいてしまうよりはよっぽどマシだと思った。
終わらせないで。
今日もまた、いつまでも20歳のままのヒロインが悲痛な声で訴えかける。
彼女の望みを叶えるように、私は巻き戻しボタンを押した。ぐるぐる、景色が目まぐるしく展開し、人々はせわしなく動き回り、ドラマの中で時が遡っていく。
こんなことをしなくても、きっと最終話まで見ればヒロインと主人公は再会できるのだろう。
それでも私は、第11話の彼女の心を救うために、あるいはいつの間にか彼女より年上になってしまった私の心を救うために、終わらない第11話を繰り返している。
『終わらせないで』
11/28/2024, 4:12:44 PM