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 朝は晴れやかだった君の顔が雲っていた。
 「ただいま」と帰って来てから隣に座って一言も話さない。

 聞かない優しさもある。言いにくいことをわざわざ尋ねる必要もない。思い出したくない記憶を呼び起こすこともない。
「飲み物取ってくるから気が済むまで居るといいよ」
 疲れたり落ち込んでいる時は君が甘い物を必要としていることが多い。むすりとしたままの君の頭を軽く撫で、元気にさせる手伝いになればとミルクティーでも淹れて、パンケーキを焼こうと思い立ち席を離れた。
 キッチンで用意を始めても君の気配は消えずにもっと近くなる。
「言いたくないことは言わなくて構わないから、どうして欲しいかは言って欲しいな」
「……」
 返答はなく背中が温かい。君の腕が腰に巻き付いて何があったかは分からないがかなり重傷みたいだ。
「あはは…。困ったな。俺はどこにも行かないよ」
 細腕に愛おしく触れると離さないとばかりに君は力を込めた。君が離れないことに困っているんじゃない。そんな顔をさせる問題を取り除けないことがもどかしいだけなんだ。
「紅茶のミルクは多め?それとも少ない方がいい?」
「…ミルクは多めがいいな」
「了解。ホイップクリームも乗せようか」
「うん…。ねぇ、パンケーキ焼くの?」
 卵、小麦粉、ベーキングパウダーに牛乳とお菓子に必要な材料が並べられてフライ返しにフライパンとくれば答えは決まっている。
「分厚いパンケーキにチャレンジしようと思うんだ。食べたくなかった?」
「違うの。…気を遣わせちゃってごめんね」
「俺が君にしたいことをしてるだけだよ。パンケーキの付け合わせは君に選んで欲しいな」
 パンケーキにもホイップクリームを付けて君が選んだバニラアイスをのせる。チョコソースで仕上げを施してネコの顔なんて描いてみた。
 いつもの君が戻ってきますように。
 我ながら上手に描けたと思うけど君にはどう見えるかな。

1/28/2024, 6:39:05 AM