狭い部屋(格差交際)
俺は正座をして向かい合い、頭を下げる彼女に溜息をついた。
どうしたものかと途方に暮れる。
「あのですね」
「帰りません」
「いやあの、」
「帰りません」
「………。ですから」
「わたくし、ぜっっっったいに帰りません」
―――だからね。お嬢様育ちのあなたが暮らせるようなところじゃないんだってば………。
荷物を見るに家を飛び出してきたのは明らかで、どうにか親元に返そうと試みるも決意が固くお手上げ状態。
しかしここで根負けするわけにはいかないのだ。
真剣交際を親御さんに承諾中の今、こんなことで水を差すわけにはいかない。
「みんな心配するでしょう」
「もう子供じゃないです。自分の行動に責任持てます」
「………あなたが生活できるような場所じゃないです、ここは」
「決めつけないでください」
「だいたい狭すぎて無理です。普段使っているような高価な家電もなければ有能な執事もいません」
「承知してます」
………。諦めないね。
まあ全部込みの覚悟の上なのだろう。
生半可な決意じゃない、と彼女の視線が痛いほど主張してくる。
―――頑固なお嬢様。敵わないな。
「一晩だけですよ」
深い溜息と共に妥協すると、彼女の表情がみるみる間に明るくなった。
「はい!」
………笑顔で返されては折れる他ない。
けれど―――
六畳一間のこの狭い家で、このお嬢様をどう扱えと。
内心頭を抱える彼に、彼女は屈託なく言い放つ。
「あ、大丈夫です! 襲ったりしませんから」
いやそれこっちのセリフだから!
あと耐えられるか保証しないよ俺!?
―――あまりの自分との温度差に、いやいっそ手を出そうとしてみれば帰るのでは………?と不遜な考えが過ぎり、彼は激しく頭を振るのだった。
END.
6/5/2024, 9:12:24 AM