無有

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『恋物語』

運命の人とは赤い糸で結ばれている。

そんなロマンチックな展開は、現実では起こらないと、分かっている。こんなに広い世界で、たった1人を見つけるなんて、それこそ不可能に近い。相手が地球の裏側にいるとしたら、なおさら。

それでも、ふと夢を見ることがある。もしも本当に赤い糸で結ばれているとして、その相手が、僕が好意を抱いている君だったら…って。

都合のいい、馬鹿げた想像だって、自分でも分かっている。僕の見る世界と、君が見る世界は、同じ景色を映していたとしても、何を感じるか、なんてことは寸分違わず同じだということはあり得ないから。

僕の見る世界では、君は、落ち着いていて、礼儀正しくて。でも、書く文字が雑だったり、ちょっと抜けているところがあったり。僕は、そんな君が愛おしいと思う。

けど、君が見る世界では、僕はどんな風に見えているんだろうか。

もしかしたら、僕が君を愛おしく思うように、君も僕を愛おしいと思っているかもしれない。

もしかしたら、君と関わる大勢の人の中の1人に過ぎないかもしれない。

もしかしたら…想像はいくつも浮かんでくる。勝手に想像して、勝手に舞い上がったり、凹んだり。けれども一歩を踏み出す勇気はなくて、結局、君と一緒にいられる時間が嬉しくて、その現状に甘えてる。

僕は臆病者だ。
けれども、君と目が合うなら、君と話せるなら、君と笑い合えるなら。
僕は、君と赤い糸なんかで結ばれていなくてもいいから、今の関係を壊したく無い。

僕は、関係性が変わらなくてもいいから、君と一緒にいることを選ぶ。

これは臆病なりの、小さな決意。

5/18/2024, 2:55:45 PM