ぽこちゃひ

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◼️スマイル
……

どうやら僕はタイムスリップしてしまったらしい。

いつものファストフードチェーンのハンバーガー屋に行って、
テイクアウトしたその帰り、
誰かが落としたシェイクの残骸を踏んで足をすべらせ、
気がつけばここにいた。

すごく見覚えのある場所ではあるが、僕がいた現代ではない。

そう、ここはきっと「未来」なんだ。






いまから数十分前のことーー



後頭部に残るずぅんとした痛みを実感し、意識を取り戻したのはその頃だ。

ズルリと上体を起こして起き上がり、周囲を見回してみた。

嫌というほど見慣れた景色ではあるが、所々違いがある。


商店街の入り口にあったお弁当屋が、小洒落た食パン専門店になっている。

保育園だった建物が老人介護施設になっている。

パチンコ屋だった場所が、日◯屋になっている。

未完成だったマンションが出来上がっている。

街ゆく人は比較的海外の人が増えたような気がする。

看板は基本的に日本語だし、左車線だ。



一瞬、僕の記憶違いかと思うほどの違いだが、そうではなかった。
だって昨日、僕はお昼をそこの弁当屋で買ったのだから。

それだけははっきりしている。

見慣れた街の経年を感じるこの状況。

僕は、タイムスリップしていたのだ。




頭をできるだけ揺らさないようにゆっくりと立ち上がる。

徐々に意識がはっきりしてくると、今の状況に対する不安よりも、
人間の本能が顔を覗かせてくる。

グウゥゥウゥウ……

そうだ。 テイクアウトしてウキウキで帰ろうとした矢先の出来事だったんだ。

当然、購入したセットメニューは手元にもなく、腹に収まった様子もない。

……腹が、減った。



僕は納得はいかないが、背に腹は代えられない。

再びあのハンバーガー屋へと向かった。


陽の高さからして今は昼過ぎ。

相変わらず長蛇の列だ。


僕が店内メニューを見ながら何にしようか考えていると、こんな声が聞こえた。


「あと、スマイル2つ分」


僕は呆れてしまった。

こんな時代にも、そんな低俗な迷惑系なんちゃらみたいな注文するやつがいるのかと。

すると店員さんはそのまま続けた。

「スマイル2つですね。 では追加で1,200円です」

ははっ 店員さんもノリがいいことで。

逆に迷惑系のノリを返すなんてさ。



でもなんだか様子が違ったのだ。

その次の人も、さらにその次の人も、
さらに さらに さらに……


老若男女問わずほとんどの人が「スマイル」を注文していたのである。


僕は途中から思わずメニューから目を離し、そのやりとりをまじまじと見てしまった。

どうやらスマイルの単価は600円。

セット割引などはないらしい。

それでも淡々と、みんな代金を上乗せして支払っている。

確かに、注文前に店員さんは笑顔ではなかった。

よくみると、店内にいる人間は例外なく笑顔ではなかった。


まさか。


こいつら全員、本気で笑顔を買ってるのか?


それほどまでにこの世界は、笑顔に飢えているのか?

自分すら笑わせることができないほどに?


僕は恐ろしくなった。


そんなの、感情を殺してしまったのと同義じゃないか。

人間として、そんなの無理だろ……


なんだよ みんな。 誰かに改造されてしまったのか?

宇宙人の侵略にでもあって、全員感情を奪われちゃったのか……?



僕はこの店内の空間に耐えきれなくなり、外へと飛び出した。



な 何年経過してしまっているんだこの地球は……!

こんなことが起こり得るはずがない!




僕は急いでスマホを取り出し、西暦を確認してみた。

そこに映されていたのは


「2031年 2月9日(月) 14:37」


えっ


ピロン


その時スマホに、「スマイル100円引き」のクーポンが届いた。

2/9/2026, 7:16:20 AM