あめ

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「暑くないの?」
その問いかけは今週に入ってから3人目くらいだった。
周りを見渡せばみんな、真っ白の半袖から健康的に腕が伸びている。紺色のセーラーカラーと白のブラウス。紺色のプリーツスカート。男子は白のカッターシャツに黒のスラックス。教室に差し込む、季節を主張するような強い日差し。青春って感じだ。
対して私は長袖の合服のままだった。ところでこの合服、過去十数年のうちに生徒たちの意見でようやく実装された代物らしい。私は何度か目になる先人への感謝の念を放っておいた。
「ポリシーに反するので」
このポリシーは、セーラー服は合服が一番可愛いと言うものである。冬服の全身紺色よりもブラウスが白い方が可愛いに決まっている。そして、半袖よりも長袖の方が可愛い。
「ふぅん」
聞いておいてやる気のない返事が返ってくる。長袖の人間には体感温度がバグっていないか確認しないといけない義務でもあるのだろうか。
「去年もそう言って8月の2週目には夏服になってたよね。今年はいつまで持つかな」
「……なんで覚えてるの?」
具体的すぎる。私ですら覚えてなかったのに。ファンなのだろうか、私の。
「長袖の方がかわいいって言うけどさ〜」
意味ありげに右手を持ち上げる。オーバーサイズ気味の半袖から覗く腕が、ひどく細く、白くて艶かしく映る。
「半袖でがっつり腕出して、そこにブレスレットとかしてたら可愛くない?」
急に性癖みたいな話をされた。
「えっ可愛い」
すらりと伸びる腕の先にシルバーのチェーンを幻視して、私の脳内審査員が満場一致で両手を上げてしまった。なんで私の好みを知ってるんだ、やっぱり私のファンか。
「帰ったら夏服出すかぁ……」
ついでに指輪とか付けたい。さすがに怒られるか。
「おしゃ、今年の記録は7月1週目ね。私の勝ちだ」
「待って。誰かと賭けでもしてます?」

『半袖』

5/28/2024, 1:19:08 PM