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《胸が高鳴る》

 一生のうちに鼓動する脈の回数は決まっている――なんて信憑性に乏しい俗説がある。
 確か二十億回だったか、そういう寿命の数え方らしい。
 勿論僕もそんな眉唾は信じていない。けれど、もしそれが本当だとしたら今頃僕は死んでいるだろう。

「ね、返事訊かせてもらっても……いいかな?」

 君が照れくさそうに首を傾げる。
 君がお気に入りの曲だと言ってイヤホンを片方渡してくれるたび、電車に揺られながら僕の肩に凭れてくるたび、視線が合うと三日月みたいに目を細めて笑いかけてくれるたび。
 僕の心臓は、信じられないほどの速さで全力疾走を始めてしまう。
 だから今も。この想いを口に出してしまえば、僕の人生はきっとあっという間に終わりを迎えてしまうだろう。
 鼓動はもうラストスパートの終盤で、そろそろ限界だと警告の鐘を叩いている。
 でも、それでも。
 僕は叫んだ、ありったけを。
 そしたら君はいつもみたいに、美しい三日月のように笑って。

 その瞬間、
 僕の心臓は止まった。
 

3/19/2026, 11:38:14 AM