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お題:夜の海

 親友は夜の海が好きだった、その縁で仲良くなった。
夜の海は不思議だ、夜の海は真っ黒でどこまでも、どこまでも続いてる気がした。
凪いでいれば僕を包みこんでくれるみたい。
荒れていれば僕を押しつぶすようだ。
辛いことがあるとよく泣いていた。
陸で泣くと涙は地面に落ち、地面にシミを作った。
夜の海で泣いていれば、この涙はきっと海に溶けていくのかな。

 生命の起源は海から始まったらしい、だからかな自分が死ぬ時は海に還りたい。
命が始まる場所、なら終わりも海に戻りたい。
 

 とても辛いことがあった、大好きな親友にに裏切られた。
「ヨボヨボの爺さんになっても遊ぼうぜ」
「OK、どっちかが死ぬまで遊ぼう!」
そう約束したのに親友は居なくなった。
理由は自殺らしい、亡くなったという一報受けて葬儀に出て聞いた。
この間電話した時に
「やりがいがある仕事だ!だから大丈夫」
電話越しで聞いた言葉に何だか不安を覚えたから、近いうちに飲みに行こうと約束していたのに。
 あいつは独り夜の海に消えやがった。
(これからいい未来があったのかもしれないのに、あの約束は忘れたのか)
そう色々問い詰めたい事もある。
だから自分も問い詰めに行こうと思った。

 今日僕は夜の海に来た、足には重りをつけた。
夜の海に進む事に僕の体は海に沈んでいく。
(あいつもこんな気持で沈んでいったのかな?)
体がどんどん海に沈んでいく、ふと夜の海からみた夜空は綺麗だった。
(あぁ夜空はきれいだ、ここにあいつも居てくれたらな)
どんどん沈んでいく僕の意識は遠のいていく。
海の中は揺りかごのようだ
僕は最後に小さな気泡吐いた。
(あぁやっとあいつに会えるんだ)
僕は笑って目を閉じた。

 眼の前に親友がいて何故か泣いている、親友の後ろは夜の海が広がっている、そして僕達は海の上に立っていた。
(これからはこの海で遊べるのにどうして泣いているの?)
親友は突然僕を強く後ろの方に押し返した。
何すんだと言い返す前に、親友が言った。
「お前までこっち来んな、このバカ」
一言文句を言い返してやろうと思って声を出そうとした、でも声はでなかった。
それどころか、どんどん親友から遠ざかっていく。
(あぁ、待ってまだあいつに伝えたいことがあるのに…)
「お前はヨボヨボの爺さんになれよ。もうこっち来んなよな」親友はそう言って消えていった。

 気がつくと病院のベッドに居た。
どうやら僕は死にそこねたらしい。
足の重りは解けて何処かに消えていた、僕は浜辺に打ち上がっていたのを近隣の住民が死体と勘違いしたやら何やら色々言われたような気がするが、正直何も頭には入らなかった。
家族から烈火の如く怒鳴られ、泣かれた。

 今はまだ心の整理もつかないが、きっと親友が生かしたんだと思う。
暫く立ち直れそうないと思うが、いつか立ち直れたなら
夜の海に言って親友に文句たくさん言ってやる。
そして、あいつに助けてもらったお礼を言いにいく。

8/15/2023, 1:08:36 PM