お題【さよならは言わないで】
さよならは言わないで、電車を待つホームのベンチで君はそう呟いた。
あと数分で来る古びた列車に乗り込んだら君はこの街からいなくなる。まだマフラーが手放せない季節に、柔らかな日差しが一足早く春の気配を漂わせる。
その暖かさに溶けゆく雪のような別れを感じてしまい口数が減ってしまった俺に釘を刺すように君が言う。
「さよならって言葉なんかでお見送りするつもりだったの?もっと気の利いたやつあるでしょ」
ゆっくりとホームに滑り込んできた列車のドアが開く。車内で振り返った君に一呼吸置いて叫んだ。
「初給料で寿司奢ってくれよ!」
「あんた帰ったらぶっ飛ばすから!」
12/4/2023, 9:15:03 AM