中宮雷火

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【新しい日】

ギターが欲しいと思った。
なぜだか分からないけど、歌いたいと思った。

夕食の時、お母さんに
「私、ギター買いたいんだよね」
と言ってみた。
すると、お母さんは
「それなら、お父さんのアコースティックギターがあるよ。お父さんが遺したやつ」
と言って倉庫からギターを取ってきてくれた。

オトウサンのギターは、埃を被っていた。
弦も錆びていた。
普通の人なら敬遠しそうなほど汚れていた。
「本当にこれ使うの?ちゃんとしたやつ買ってあげようか?」
と、お母さんに提案されたけど、
「私、これ使いたい」
と勝手に口が動いていた。

ギターは手に入ったけど、弦が錆びていてとても使えそうにはなかった。
そこで、とりあえず楽器屋に行ってみようと思い立った。

自転車で20分ほどの場所に、古びた楽器屋があるのは知っていた。
私はギターケースを背負い、楽器屋を目指した。
私は港町に住んでいる。
海沿いの道を漕いでいると、潮風が心地よく頬に当たってきた。
順調に自転車を走らせていると、やがて楽器屋が見えてきた。
しかし、いつ見ても古びているなぁ。
改装すればいいのに。

店内に入ると、年老いた店員が一人いた。
「いらっしゃいませ」
私は店内を見回した。
オトウサンのギターとは似つかない、綺麗な
ギターがたくさんあった。
奥にはベースやドラム、ピアノも見えた。
「あの、ギターの弦を張り替えたいんですけど…」
と、話を持ちかけると、どうやら1000円で弦交換をしてくれるようだった。
1時間ほどで交換できるらしい。

1時間後。
そろそろ弦交換が終わっただろうか。
再び店内に入ると、やたらと光り輝いたギターを見つけた。 
オトウサンのギターだ。
「わぁ…」
思わず声が漏れた。
埃なんて一切ない、綺麗なギターになっていた。

ギターを受け取り、代金を払い、私は外に出た。
斜めに傾いた陽射しが少しだけ眩しい。

自転車を押して歩く。
その間、オトウサンのことを考えていた。
オトウサンは、私が物心つく前に死んだ。
だから、私はオトウサンのことを知らない。
でも、年数が経っている割にギターは綺麗だった。
壊れているところもなかった。
きっと、ギターはオトウサンにとって大切なものだったのだろう。
そう考えると、オトウサンのことをやっと知ることができたように思えて嬉しくなった。

潮風が、また私の頬を撫でた。

7/22/2024, 8:01:03 AM