紅茶の香り
別に、見栄を張ってたわけじゃないし。
もう何度も自分に言い聞かせた言葉を呟く。自分が不出来なのはよくわかっている。期待していたのは周りの方。そのせいで、今度こそ自分にも出来そうな気がしてしまった。
コップの中でじわじわと広がっていく紅茶の色を見つめていた。チームに配属されて2年目。必死にかき集めた私の能力は、時とともに溶け出していった。残ったのは大した味もしない私。見切りをつけて捨てられるのも時間の問題かもしれない。
液滴を零さないようティーバッグを捨てる。ため息を吐きそうになった時、紅茶の香りが私を包み込んでいることに気付いた。懐かしい香り。受験勉強に励んでいた頃、よく母親が紅茶を淹れてくれた。あんまり無理せずにねと言って、音を立てないように部屋の扉を閉めた。
大丈夫。無理はしてないから。
あの頃のいつもの返事が蘇り、なんとなく勇気をもらった気がした。一口飲んでみると、安物の紅茶は思いのほか美味しかった。
この香りがなくなるまで、ゆっくりしていこう。
10/27/2024, 1:07:23 PM