冬至。

Open App

手を伸ばして彼女は力強くあたしに向かって叫んだ。
「手を出して」
ゆらゆらとほうきに跨がり蛇行しながらこちらに必死に手を向ける。
ここは高い高い塔の上。
その塔のいちばん上の部屋であたし達は追われていた。
何気なく踏み込んだその塔で知ってはいけないことを運が悪い事に知ってしまった。
それで追われてここに居る。
扉の向こうではガヤガヤと大勢の追っ手の声がする。
扉も激しく揺れていた。
それをちらちらと横目で見ながら彼女は窓の外から手を伸ばす。
「はやく!!」
「ダメっあたしは飛べないの!怖い」
彼女には魔法の才能があり自分にはそれがなかった。
そして彼女はつい先程それが開花したばかりだった。
「いいから、早く」
不安定そうに上へ右へ下へと揺れながら必死に手を伸ばす。
「あたしは飛べないのよ。あなただけでも行って!!」
このままでは2人とも捕まってしまう。
そんなのは嫌だ。
「いやよ!あたしはあなたとじゃなきゃ生きていけないの」
そう言われて彼女の顔を見ると、彼女は穏やかに笑った。
「大丈夫だから。あたしの手を取って」
おずおずと手を伸ばすと力強くその手を取られた。
身体中に風の抵抗を感じる。
落ちていく。下へ下へ。怖い。
思わず目を閉じると、ぎゅっと手を握られる感覚がした。
恐る恐る目を開けて手の方を見上げるとその先に笑う彼女の顔があった。
「…ごめんっ。まだ慣れてなくてっ怖いよねごめんね」
乗ったほうきに振り回されながらそれでも決して離さないその手を負けじと握り返して首を大袈裟に横に振り否定しながら無理やり笑い返した。
「絶対一緒に帰ろうねー!!」
その声と共にふわりと身体が浮かび上がる。
落下速度がゆっくりに変わる。
ふわりと吹いた風があたしの身体を包み込みそのまま彼女の後ろに届けてくれた。
落ちないようにぎゅっと彼女の腰に腕を回した。
その腕を掴まれて微笑まれる。
「行くよ、落ちないようにね」
力強いその声に彼女の身体に巻き付けた腕の力でもって答えた。
不安定ながらも誰よりも早く駆け抜けていく。
その運転はかなり危険なものであったけど不思議と怖くなかった。
彼女とならどんな事があってもきっと乗り越えていける。
何故だかわからないけど笑いが止まらなくなってしまって2人で笑いながら風の中を駆け抜けた。



               (風に身をまかせ)

5/15/2026, 10:14:36 AM