「お届け物でーす」
…ここ、学校の屋上なんだけど。
今日も今日とて、放課後の屋上で駄弁る俺達の前にそいつは突然現れた。
配送会社の制服に身を包み、至って普通の配達員と言った感じだが、状況が普通じゃない。
屋上のドアはいつも通り鍵をしていたはずだ。それなのに何故、この配達員風な男はいるのだろう。
俺達のように鍵開けでもしたというのか?一介の配達員が?
警戒する俺と彼女に対し、配達員風な男は「お名前の確認とサインをお願いします」なんて言って辞書2冊分位のサイズの小包を差出してくる。
「荷物なんて頼んでいない。人違いだ」
俺の言葉に配達員は不思議そうな顔をして、
「…そうですか。念の為、お名前の確認だけでもしていただいてよろしいですか?」
──引き下がらない。
怪しい配達員の荷物なんて見たくもない。何が起きるかわからないじゃないか。
近づいた途端爆発するとか──ありそうだ。絶対近づきたくない。
一歩も動かない俺に配達員は不思議そうな顔をして首を傾げている。
すると今まで静観していた彼女が、何を思ったのか配達員に近づいていく。俺は必死になって、彼女の腕を掴もうと手を伸ばした。しかし、伸ばした手は彼女の腕を捉えること無く空を切った。
焦る俺に対し、落ち着いた様子の彼女は、躊躇することなく荷物を覗き込み──何事もなく箱をしげしげと見て言った。
「これ、お届け先、あんたの名前よ」
淡々とした彼女の声につられて荷物を覗き込むと
確かに俺の名前がある。
「サインが必要なんですよね?」
ペン貸してくれますか?
彼女の言葉に配達員は頷くと、慣れた手つきでペンを胸ポケットから取り出し彼女に差し出した。
「おい!何勝手なことしてんだ!」
俺の至極真っ当な意見は、彼女と配達員の男には届かないのか、ペンを受け取った彼女はサラサラとサインをし、配達員の男は伝票を切り取ると、荷物を彼女に手渡した。
「あざましたー」
やる気のない礼を述べると、配達員の男は屋上のドアを開けて出ていった。
突然現れたくせに帰りは普通なのか。ますます意味がわかんねぇ。
配達員の男が消えたドアを呆然と見ていると、荷物を受け取った彼女が小包を矯めつ眇めつしているのが目端に写った。
「これ、開けてみましょうよ」
「お前…」
「良いじゃない。あんた宛なのは間違いないし、受け取らなければあの男ずっと突っ立ってたわよ。或いはずっと付き纏ってくるかのどちらかね」
「受け取り拒否しようと思ったんだけど」
「もう受け取ってしまったわ。大丈夫よ。中身は紙だそうよ。軽いし。爆弾とかじゃないわよ」
彼女から小包を受け取る。
確かに拍子抜けするくらいに軽い。
送り状の荷物を書き込む欄には彼女の言う通り、「紙」とだけ書いてある。
紙を贈るのなら、小包じゃなくて封筒じゃないのだろうか。
送り主の欄にはNONAMEと書いてある。
名無し。…人を食ったような名前だ。
住所の欄には、それらしい住所が書かれているが実在する住所なのかはわからない。
怪しい、怪しすぎる。
躊躇う俺に彼女は、無表情でじっと見つめてくる。
その黒目がちな目が、臆病者と罵っている。
あぁ、もう!どうにでもなれだ!
小包のガムテープを力任せに剥ぎ、箱を開く。
「えっ、なんだコレ」
箱の中には──某有名遊園地の名物キャラクター(男女)のキーホルダーが一つずつと、その遊園地のチケットが2枚入っていた。
彼女も箱の中を覗き込んで「なにこれ」と言っている。
他に何かないのかと箱をひっくり返してみたが、中身はこれだけらしい。
…。
某有名キャラクターの男女キーホルダーとチケット2枚。
ここから導き出される答えは、つまり…。
「お前、遊園地好き?」
「あんまり」
即答だ。だろうな。そうだと思ってた。
こういうのは陽キャやリア充が喜ぶもんであって俺達みたいなのには…。
「俺と…行くのは?」
「それは…」
彼女が言い淀む。
いつも歯切れが良いのに珍しい。
そう思って彼女を見ると、こころなしか彼女の頬が赤いような…。
「あのさ、行ってみねえ?」
俺は彼女にチケットとキーホルダーを差し出した。
───────────────────
「さて、次の配達先は…。あぁ。遠距離を終えゴールインしたカップル。その次は、雨の中突っ走った女性。その次は、傘の御人とカードの子。さてさて。これは急いで配らなくては」
配達員風な男はそうゴチると姿を消した。
12/23/2023, 1:39:17 PM