空が泣いていた。
もちろん、涙を流してるわけではない。それでも、ボクにはそうしか見えなかった。だって、この世界に雨が降ることなんてないから。
ポタポタと落ちてくる水滴を一粒、指に乗せて舐めてみれば塩味を感じられて、本当に涙なのかと錯覚しそうになる。
…………なんなんだろうか、これは。
雨、ではない。きっと、降らない。
上の人が雨を降らせられるような技術をそもそも持っていないから。
そこまで考えた時、ふと思った。
彼のグランドピアノは無事なんだろうか。
どういう原理で動いてるかとか、ボクには全く分からないけれど、なんとなくあれは水に濡れてはいけないようなきがしてくる。
いてもたってもいられなくて、走り出そうとした時、ガシッと後ろから体を拘束された。
「見つけた」
背中がゾクッとするような声のトーンが耳に届いた。いつもより数倍明るい声音だ。
「……演奏者? ピアノは濡れても」
「僕が降らしてるからね、ピアノにはかかってないよ」
彼は平然と言った。でも、彼が言ったことが本当に事実なら、上の人が演奏者くんのことを捕まえたり、監視しようとするのは当然のことかもしれない。だって簡単に天気を変えられているから。
「……じゃあ、なんで」
「きみは『雨』を見たことがないかと思ったんだ」
「それだけ…………?」
「ああ」
軽く言われて、でもボクには理解が追いつかなくて、やっぱり彼とボクというのはどう考えても対等ではなさそうだ、とため息をついた。
9/16/2024, 3:13:37 PM