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 流れていった笹舟みたいでした。その上に乗ってきてしまったようでした。どこまで降りてきたのか、流れの上にはもう戻れないけれど、はじめに行きたかった場所なんてこの世にないし…。
 失くしたものはかえらないようでした。未だあるものもあるんですが、痛みを堪えるのは悲しいし、誰にも泣いてほしくない願いが叶わないから、空に浮かんだ星を眺める時間を失くしました。(最近は。)
 風が吹いていて、通り過ぎて手が届かなくなっていて、どこに行きたいのかわからなくなっている。雲は凪いでいて、その下で人は犇めいていて、犯した間違いの数に押し潰されていました。
 花を踏んだことがたくさんあったんでした。覚えてもいない間にたくさんあったんですよ。知らないで過ごせる罪悪を、知ってしまう善良さが、誰の首も締めないことを祈っていた筈でした。

5/14/2024, 2:05:00 PM