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【終点】

「終点があるということは、始点があるということだ」
 生ぬるい空気を扇風機がかき混ぜる。こめかみから汗が垂れる。雪くんの白い手が、水色のチューペットをぱきんと割る。
 雪くんはそのまま、片方を私にくれた。しゃくりと齧れば、喉をすべる氷のかけらがこころよい。
「このループを解消するには、始点が大事だと?」
「そう、始点の前に何があったのか。栞ちゃんは覚えている?」
 私はカレンダーに目を向けた。始点は8/29、終点は本日の8/31だ。どちらも真っ白で、予定なんて何も書かれていない。
「8/29には何をしていたの?」
「何って……お葬式」
「誰の?」
「雪くんの」
 日焼けした壁には、丁寧に皺をのした制服がかかっている。畳の上にぽたりと汗が落ちて、拭かなくちゃとぼんやり思う。
「僕のお葬式かあ……」
「そうだよ雪くん」
 どうせなら、雪くんが死ぬ前にループして欲しかったなと思う。こんな何もかも終わった後に、ループしたって意味がない。
 

8/11/2023, 10:15:20 AM