「 届かないのに 」
俺は血が滲み出そうなほど強く強く拳を握った。
心臓が自分でも聞いたことがないくらい
ドクンドクンとやかましく音を立てる。
目を奪われたまま、よろよろと『それ』に近づいた
どうして、どうしてこうなった?
先日まで元気にヘラヘラしてたろ?
サインはあったか?
何か見逃してた?
もう少し早く異変に気付いていたら?
いや、それは不可能だ。
本当に不可能だったか?
多分、不可能……だと思う……
「俺が……こんなだから……こうなった…………?」
ぐるぐる回る思考と嫌な気付きのせいで、
力なく地面へと膝をつき項垂れる。
顔を上げた先には風がないにも関わらず
ゆらりゆらりと揺れる兄の姿。
そのゆらめきを何故だかしばらくぼーっと眺めていた。
まるで草花が揺れる様子を見るかのように。
視界に入ってるようで入っていない。
目では見えているけれど、
脳は靄がかかったように認識しておらず
答えの出ない自問自答をくりかえしている。
けれどそんな自分をスマホのバイブが
現実へと引き戻した。
母からのメッセージだ。
「あんた、あの子に会いに行ってるんでしょ?
元気してた?帰ったら様子教えて」
返信はせず閉じる。どう言えばいいんだよこんなの。
「この、バカ兄貴」
そう呟き、奥歯をぐっと噛み締める。
もう彼には届かない言葉でも、
言わずにはいられなかった。
こんな結末、誰が喜ぶってんだよ。
本当にバカ。バカすぎる。ほんと……バカだよ……
「俺……そんなに頼りなかったか……?兄ちゃん……」
身体に力が入ってるのか入っていないのかもわからない。
気持ちがずっと嫌にふわついている。
気持ちが悪い。
そして、とにかくとてもとても悲しくて、
恐ろしくてしかたがなかった。
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6/17/2025, 4:34:07 PM