霜月 朔(創作)

Open App

帽子かぶって


帽子を目深に被ります。
身を切る寒風を、
避けるように、
凍える空気の中、足早に。

でも、本当は。
木枯らしよりも、
ずっとずっと冷たい、
鋭い刃物のような、
人の冷ややかな視線から、
私を隠す為。

人の悪意ある視線は、
余所者の私を、
無遠慮に射抜き、
深く突き刺さります。
その冷たさに、
心は、静かに沈むのです。

富める者と貧しい者。
相容れぬ存在が、
この大きな街の裏で交差し、
軋轢を生み、争いを生み、
人と人は傷つけ合います。
虚栄の豊かさの影には、
痛みが潜んでいるのです。

だから私は、
深く帽子を被り、
人目を避けるように、
街を歩きます。

『帽子かぶって』
遠い夏の日の、
母の優しい声が、
耳に響きます。

幼いあの頃、
日差しを避けてくれた帽子は、
今や、人の敵意を防ぐ兜。
冷たい視線を躱し、
静かに心を守る、盾なのです。

1/28/2025, 5:16:13 PM