名前の無い音

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『横顔』


「写真は魂を吸い取られる」

祖母がよく言っていたからなのか
昔から写真に写るのが苦手だ

だから 幼い頃の写真も 卒業アルバムも
好んで見返す事はなかった

いつも なんだか
写真に写っている自分を見るのが
恥ずかしかった

※ ※ ※

好きになった人の職業が
『カメラマン』でも
やっぱり 写るのは嫌だった

「撮ってあげるよ?」
「……断る!」

何度言われても 断っていた


彼は
結婚式や七五三 幸せな瞬間を
形にする仕事をしている

写るのはごめんだけれど
彼の撮った写真や映像を見るのが
私は大好きだ

些細な瞬間を 切り取る
『センス』と言ってしまえば簡単だが
なんだろう そんな『好きな感じ』が
似ているんだと思った


休日
のんびりとした時間を過ごしていると
彼が 自分で撮ってきた写真を
タブレットで 見始めた
確認したいことがあるという

隣で なんとなく 手元を覗き込む

可愛い女の子 入学式かな
ランドセルが大きくて でも嬉しそう

結婚式
幸せな二人の時間 二人とも笑顔
素敵だなぁ

「素敵な写真だね
見てるだけで 幸せな気持ちになるよ」

と……

「え?」

1枚の写真で 彼の手が止まった

「これ 良くない?」

笑いながら こっちを向く
それは 私の写真だった

ベランダの鉢植えに 水をかけている
私の横顔の写真

「……やめて いつ撮った? 消して!」
「いやだ」
「消して!」

恥ずかしい
写真になってる自分が恥ずかしい

「まってまって ちょっと よく見なよ」

恥ずかしさに 目を瞑っていたが
そっとあけてみる

「これ 可愛いよ 僕は好きな顔」
「可愛いくない!」
「かわいい 横顔も ……正面も」

彼はタブレットを置き
両手で 私の頬を挟む

「かわいい ほんと かわいい」

と 言いながら……
顔をブニッとはさみつぶす

「や~め~て~」

はさまれながら もがいてみる

あぁ 彼はこうやって
私の自己肯定感をあげてくれているんだな
そんなことをボンヤリと思う

「これ いい写真 また撮ろう」
「隠し撮りはやめてください」
「……わかりました では 正々堂々撮ります」

あらためて タブレットを横取りし
自分の横顔の写真を見る

不思議なことに
あまり嫌な気持ちにはならない
彼が撮ってくれたから?
あれ?
なんだか 悪くないな

彼に聞いてみる

「ほんとに かわいい?」

彼は真顔で答えた

「世界一かわいいく撮れた自信あるわ」

自分の顔が 耳が
赤くなっていくのがわかった

「かわいい!カメラ持ってくる!」
「やめてっ!」

私の彼は
私を 世界一幸せに撮ってくれる

世界一大好きな 天才カメラマンだ

5/20/2022, 9:54:18 PM