水上

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人は知ること、真似ることで覚えていく。それは生きること全てに共通する、学びの原型のように思う。

穏やかな日差しが町並みをやわらかく染めている風景を、コーヒーショップの大きな窓越しに眺めた。休日の日向には溢れんばかりの睦まじい姿が満ちていた。友達、恋人、家族。肩書きは様々違えど、感情がもたらす行動選択肢には極端な差は無いようだった。好きな相手には優しく、苦手な相手には程良く。

平和だ、とどこか他人事のように眺める。いや、実際他人事だ。この平穏と親睦の空気にはどうにもなじめない。

とは言えある程度なじまないことには。さもなくば生きていくための攻略難易度が跳ね上がってしまう。だから仕方なく、ぬるくなったコーヒーを片手に行き交う人の振る舞いや何かを盗み見て、情報として自分の中に蓄積する。効率が良いとは言えないが、楽でいてそれなりの成果が見込めるだけじゅうぶんだ。

愛というのは時に難儀なもので、とかく正しいように見せかけて問答無用で人を縛ってしまうことがある。

可愛らしくて、したたか。そんな言葉が似合う母親に溺愛されて育った。朝食は起きてからのオーダー式。着替えは気温や湿度を考慮し、色味や柄のバランスなんかも悩みなが選んでくれた。おやつはいつも手作りで、小学校高学年になるまでは、一人で外出することもなくただひたすら、母の庇護下で育った。

その結果、食は気分に依存し、服のコーディネートはさっぱり分からず、単独では上手く他者とコミュニケーションが取れない自分が出来上がった。

母の庇護という名の監視から解き放たれて唯一幸福を感じたのは、家でも市販のお菓子が食べられるようになったことだった。



〉蝶よ花よ

8/8/2022, 1:53:27 PM