『喪失感』
闘病の末に姉は亡くなり、私は通夜と葬式の忙しさに紛れていた喪失感をまざまざと感じていた。姉ががんを告白した時から思うようになったことがある。いなくなればいいのに、と思っていたことが回り回っていたのなら、姉をこんな目に遭わせてしまったのは私のせいかもしれない、と。そして、いずれは私もがんになるに違いない、と。
喪服を脱いだ日の夜に、いつもお茶会をする店で先に来ていた姉が手を振っていた。
「やっぱここのケーキと紅茶最高だよね。久しぶりに食べるとおいしさ倍増するわ」
もりもりとケーキを平らげていく姉の前で私はまたしてもフォークが進まない。目の前のケーキがまた掠められていくけれど俯いたままでいた。するとぺし、と後頭部を軽くはたかれる。
「あんたは大丈夫よ」
「そんなの、わかんないじゃん」
「今わたしがそう言ったからそうなるの。だからさっさと行きなさい」
人にフォークを向けて説教する姉の姿が霧が晴れるように薄らいでいく。
「ケーキ、食べそびれた……」
目覚めた布団の中で今までずっと抱えてきた不安が少しもないことに驚き、姉の言葉と、はたかれた後頭部の感触を思い出す。そして、もう姉がいないという事実にまた気付いて少しだけ涙した。
9/11/2024, 3:46:31 AM