Void of Death

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かく、かく、かく
冷たい音を立てて時計は刻む。
時計の音があまりに大きすぎて私は彼の言葉を拾いきることができないままだ。
彼の唇___このまま、しんで、しまえたら
胸が深淵の香りで満たされるようで、倒れそうになる。五年前、初めて彼の希死願望に烈しい苛立ちを憶えた己を彷彿とさせる香り。
私は一度だけ、彼に死にたいと伝えた。
彼はそれ以来、幼子が母を呼ぶ様に何度も、不安げにそれを口にするようになった。
一連のこの行為に意味など無い。意味を持つべきではない。
彼のしなやかな指を、その屍のように白い手首を、私が遊びのつもりで自身の首元へ巻き付ける度に、彼は熱を持った目で私を焦そうと試みる。私も彼を、情を孕んだ瞳で覆ってしまおうとする。
時計の姦しき喋り声が増幅する時のみ私と彼は互いに夢中になる。
紅顔の彼の項をひけらかした愛で辿る時、肉林が二度も三度も打ち震えて聖歌に擬態する。
そうなってしまえば、私は堪らず彼の喉笛に噛みついて同じように歓喜に臓腑を震わせる。
時計の針が進むまで、音を上げて無情に泣き出すまで、彼と私はお互いの不揃いな部分を埋め合う。
彼の唇の二度目の震え__このまま、しんで、しまえたら
私の胸はアイデンハイグまで裂けてマグマが溢れ落ちる寸前までに到達した。
この希死願望には全くもって意味が無い。
そう思い込み続けられるまで、この遊戯を縛る深層意識なぞ死んだままでいい。



2/6/2023, 5:03:34 PM