地元を出てから早10年。
親と揉めて逃げるように出てきた。
あれから一度もあの地には寄り付かなかった。
それなのに、出張先として命じられたのは地元だった。
「ついでに親御さんに顔見せておいで」
なんて何も知らない上司はニコニコして言ってきた。善意100%なのがひしひしと伝わってきて断ることはできなかった。
久々に見る景色に少し身震いをした。
懐かしさに浸っている余裕はなかった。
流れるキャリーケースを受け取り、出口へ向かう。
タクシーに乗り込み、商談先へ急ぐ。
極力外は見ないようにした。
無事商談は終わった。
ほっと胸を撫で下ろしながらホテルへ向かう。
途中でコンビニに寄ってビールを買った。
ホテルへの道をスマホで確認すると馴染みある公園前を通るのだと気がつく。
高校生の時によく友と来ていた。
中学生までは存在も知らなかった公園。
滑り台が一つポツンと佇む小さなところだった。周りに大きな建物が多くて回り込まないと気が付かないような位置にあり、秘密基地のような感覚があって好きだったのだ。
着いてみると滑り台は撤去されていて、ベンチしかないシンプルな敷地になっていた。落ち葉をはらって腰を下ろす。おもむろにビールをプシュッと開けた。
昔はここでコーラを飲んで夕陽が沈むのを見ながら恋バナをしたものだ。
あの時、私は恋をしていた。
相手は担任教師だった。私たちは仲を深めていたが、親はそれを知って猛反対だった。
今思えばあの人はろくでもない奴だったとわかる。親の反対は“心配”であったということも。
卒業して家を逃げるように出て一ヶ月後に、あの人は新たに担任を受け持ったクラスの生徒に手を出していた。
「高校生というブランドがなくなったお前には興味がない」
とあっさり別れを告げられた。
その後も同じことを繰り返し、教育委員会にチクられ処分を受けたと、ここで語り合った友から聞いた。
もうとっくにそんな奴ことは忘れていて、
親に対する気まずさだけが残っていた。
このお気に入りだった場所に来るまでは、気まずさの原因はすっかり忘れていた。
「もう、わだかまりのもとはないのか…」
そう思うといつまで意地を張っているのだと、情けなくなってきた。今お酒が入ってるうちに勢いで行動しなければ後悔する、そんな気がして実家の電話番号をタップした。
プルルプルルッという繋がる前の音が自分の心音とリンクする。
高校生の時と同じ夕陽を見ながら、
お気に入りの場所で、
また人生が大きく動き出すことに胸を高鳴らせた。
#お気に入り
2/18/2024, 4:06:55 AM