「傘。入るか?」
ざぁざぁ、ざぁざぁ、と涙雨。
独り隠れた草木の隙間に。
こてん、と首を傾げて傘を差し出す。
「雨の日の午後、あてのない散歩。なんとも優雅じゃないか。晴れている時とはまた違った景色も悪くない。気分が落ち込んでいると物悲しいものだが、それもまた一興。雨は何時か必ず止む。人の心など置き去りにな」
手を繋いだ彼女は歌うように語る。
「雨は美しい。晴れてばかりの空模様よりも、断然良い」
「何時かは晴れるんだろう?」
「それはそうだろう。何時までも雨なんて、それはそれで鬱陶しい。止まない雨なんて無いんだよ。雨が止んでも曇るかもしれないが、一度風吹けば晴れ渡る。そんなものだよ」
「そんな単純な話じゃないだろ」
「お前は難しく考えすぎなんだよ」
彼女が困ったように笑う。
ふと瞬いた彼女は空を指さす。
「それにほら。雨が降らなければ見えないモノもある」
未だ雨の降り続ける曇天。
彼女は何を指さしたのだろう。
「うん、うん。同じ空では見えるモノも常に同じ。嫌でも辛くても、少しくらい変化があった方が楽しいじゃないか! 苦しい事の後にだって美しいモノもある。そんなものだろう? 人生とは」
「…………………………人生、か」
たかだか一時の雨降りに何を重ねているのか。
人生は天気よりも人の都合なんて考えないのに。
(だが。まあ)
彼女がそういうのなら、それでも良いか、と。
「雨。止まない、な」
「うむ」
「……………………悪くはないな」
「そうだなぁ」
ざぁざぁ、ざぁざぁ、と涙雨。
繋いだ手は雨晴の虹のように。
【題:降り止まない雨】
5/25/2024, 3:51:08 PM