「『始まる』じゃなくて、『初める』でもなくて、『初まる』?……お、おぉ……?」
そういえば一昨年、「哀愁をそそる」ってお題があった。その類かな。 某所在住物書きは考える。
終えて、始めるなら、「『始』動」ということで「始まる」が正しい気がする物書き。
新規で新しくならば、「『初』動」ということで「初める」かもしれない。
そこをあえて、敢えて「始まる」でも「初める」でもなく、「初まる」なのだ。
「どうだろう。始まる、初まる……?」
物書きは途方に暮れ、天井を見上げる。
――――――
前々回投稿分から続くイケボふんどしキリンさんとチートアイテム搭載機器点検員奥多摩君のおはなしも、そろそろ一段落させたいところ。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムを回収して、適切な方法で収蔵したり、活用したり。
お題回収役の通称「奥多摩君」は、通称どおり、森と川と山に抱かれた奥多摩の出身。
今月から環境整備部に異動となりまして、
部署内で使用されているチートアイテムの適正利用を、数年かけて点検する仕事を任されました。
前回投稿分では環境整備部空間管理課の、空間生成装置「そのもの」を点検して、評価まで。
元々チートアイテム収蔵部署に居た経験と知識を活用して、しっかり、バッチリ、終わらせました。
翌日のおはなしである今回は、空間生成装置が作り出す、空間の方の点検と検証。
生成された空間が、安全で、頑丈で、「生成空間の中で何があっても」外の世界に影響をちっとも与えないくらい絶対的であることを、
再チェックして、再確認します。
「ふわわぁ。もう朝だ」
奥多摩君、その日は珍しく、バチクソに清々しい快適な気持ちで、朝を迎えました。
「珍しい。ちゃんと疲れがとれてる」
久しぶりに、ちゃんと動いて、運動して、疲れたからぐっすり眠れたのかな。その影響かな。
予想した奥多摩君、もぞもぞ毛布から体を出すと、
「――ん?」
おかしいな、オカシイナ。奥多摩君、いつの間にか、ふんどしをして寝てたようです。
「……ナンデ?」
「待っていたぞ奥多摩君。今日も私と共に、保存空間生成装置の再点検と再評価をしていこう!」
初めてふんどしをお洗濯に出した奥多摩君です。
彼を待っていた細マッチョのイケボさんが、ビジネスネーム「キリン」さん。
ちゃんと制服を着ています。
「今日は装置が生成した空間の方の、強度評価だったな。きみが来る前に、記録装置と、万が一のための防護隔壁と避難経路の点検はしておいたぞ」
さぁ、始めよう。 キリンさんはイケボな低音で、緊張いっぱいの奥多摩くんを勇気づけました。
「では、記録を始めます」
奥多摩君、安全な部屋に移動しまして、一緒に生成装置の点検をする作業員にアナウンスです。
「保存空間生成装置による、生成空間の隔離強度を確認するミッションです。
環境整備部空間管理課の責任のもと、開始します。
空間生成装置起動。保存空間、生成開始」
保存空間生成開始。 作業員が短く復唱します。
リモート用のスイッチが押されると、大きな大きな装置が静かに動き出し、
ひとつ、文字通り「異空間への入口」のような、丸い穴が生まれました。
「保存空間生成確認しました。
ヒクイドリさん、お願いします」
「はいはい、了解。特別手当、頼んだよ」
保存空間の中に、管理局の特殊情報部門所属の、言葉を話すハムスターが入っていきます。
ビジネスネームを「ヒクイドリ」といいます。ハムなのに鳥とはヘンテコですね。
「じゃ、はじめるよ」
生成された空間の中で、ヒクイドリなるビジネスネームのハムスターが、宙に浮いています。
「世界を崩壊させるリスクを持つ侵略生物」、セカイバクダンキヌゲネズミの原種であるヒクイドリは、
特定の条件を満たすと、体に秘めた「概念の種」を発芽させて生まれ変わり、
その過程で「その宇宙」を、すっかり、たちまち、「新しい宇宙」で塗りつぶすのです。
ヒクイドリの浮遊する保存空間が、まばゆい暴力的な光の爆発に包まれます。
ビッグバンです。文字通り「天文学的規模」のエネルギーがヒクイドリから放出され、
1万年、10万年、30万年までが一気に進み、
そして、「宇宙の晴れ上がり」。
リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」をBGMに、してるかは別として、
浮遊するヒクイドリをバックに、ヒクイドリが生み出した宇宙の「最初の恒星」が輝きます。
宇宙のあけぼのです。
こうして空間に最初にあった空間は「終わり」、
また最初の最初、光の再定義と電子の交通整備、重力の登場を経て、新しい宇宙が、その原初が、
「また初まる、」のです。
「保存空間内での宇宙発生、確認しました」
宇宙ハムのヒクイドリが保存空間から帰還して、
空間内での規格外なエネルギー放出にもかかわらず、奥多摩君たちが居る「空間の外」は、揺れひとつ、漏れひとつ、何の影響もありません。
「このまま1時間、経過観察します。
ひとまず第一段階、正常に終了です」
お疲れ様でした。奥多摩君は安堵のため息を、大きく、長く、吐きましたとさ。
3/13/2025, 3:46:40 AM