『秋恋』
体育祭のときにひと目見た先輩のことが忘れられず情報を集め、接点を探し、体育館裏での告白まで漕ぎ着けた。
「好きです!」
「ごめん無理」
踵を返して去ろうとする先輩の前に駆け寄って立ちはだかり退路を塞ぐ。一言だけで告白を終わらせるなんてあんまりだと思ったのだ。引き下がれば先輩は行ってしまう。どうにかして会話を続けなければならない。
「なんでですか!せめて理由を!」
「えっと、話したことないから」
「今話してるじゃないですか!」
「……付き合ったところで来年卒業するし」
「会えない時間は愛を育みます!だから大丈夫です!」
「受験勉強で恋愛してる場合じゃない」
「息抜きにはいつでも付き合います!」
すると先輩はその言葉を聞いて大きくため息を吐いた。
「君の言う好きですってなんなの。話すってこういうことじゃないでしょ。それに待ってるだけでも大丈夫とか息抜きだけでもとか、君のやりたい恋愛ってこういうことなの?」
言われて何も言えなくなった。先輩はその場に留まってくれていたけど、付き合うことに前向きという雰囲気ではないことだけは明らかだった。
「君は全部一方通行すぎる。こっちの状況や都合も考えずに突然呼び出して一目惚れしたから付き合ってって、その段階でも無理なのに、断られかけたらなんでも大丈夫としか言わない。そういう人と俺は絶対に付き合いたくない」
言って先輩は私の側をすり抜けて行ってしまった。涙が滲んで来たのは先輩に言われたことのどれもがその通りだったから。振られた悲しさよりも自分の浅はかさと後悔が大きく、私はしばらくその場から動けなかった。
9/22/2024, 2:25:11 AM