【微熱】
『なぁ、本当に大丈夫なのか?』
「大丈夫だってば。これくらい、大したことないし。」
そう言うこいつの顔は、いつもより赤い。
熱でもあるんじゃないかと思い、問い詰めてみても
"熱はない"、"大丈夫"の一点張りだ。
『大丈夫に見えねぇから言ってんだよ。
休んだ方が良いんじゃないか?』
「…大会も近いのに、休んでなんかいられないよ。」
『だからこそだろ。大人しく休んで、早く元気になれ。』
保健室に連れて行こうと、軽く背を押して誘導する。
一歩踏み出したそいつは、バランスを崩してもたれ掛かる。
「…ごめん。」
『ったく。これのどこが"大丈夫"なんだよ。』
力なく俯くこいつの顔は、数分前より赤い。
(…もっと早くに、無理矢理にでも
休ませてやるんだったな。)
そんなことを考えながら、ゆっくりと保健室へ向かう。
「ほら、もう少しで保健室だ。もう少しだ、頑張れ。」
『…ん…。』
保健室に着く頃には、声を出すのも辛そうだった。
『失礼します。』
「どうぞ…って、どうしたんだい?さぁ、ここに寝かせて。」
『こいつ、朝から熱っぽかったんです。口では大丈夫って
言ったんですけど、そうは見えなくて…。』
「そっか。よく連れて来てくれたね。」
ベッドに寝かせて、改めて顔色をうかがうと、
目元に涙が浮かんでいた。
『…俺が、もっと早く保健室に行かせていたら、
ここまで無理させることも、なかったのに。』
「君はよくやってくれたよ。
ちゃんと休めばすぐに元気になるから大丈夫だよ。」
『はい。…ありがとうございます。』
再び様子を見たとき、そいつがうっすらと目を開けた。
「……ごめん…。」
『大丈夫だ、気にするな。それより、今はゆっくり休め。』
「…ん……ありがと…。」
そう呟いたこいつの顔は、更に赤くなっていた。
――その赤面は微熱のせいか、それとも…。
11/27/2024, 2:34:47 AM