NoName

Open App

 中二の頃、テレビ番組で見た"宇宙との交信"に興味を持ち、その日から毎晩、自作の発信機から自分の声を空に向けて放った。
 宇宙との交信をし始めて一年が過ぎ、今日で最後にしようと決めていた夜。初めて声が返ってきた。
 「ダレ?」
 明らかに宇宙人ではなく、地球人らしき人間の声であった。少しがっかりしたが、初めて返信がきたということに嬉しさも感じていた。
 「あの」
 「は、はい」
 「…人間ですか?」
 「え?あ、はい。」
 「なんだ人間かよ。ぬか喜びさせやがって…」
 「ええ?」
 それはこっちのセリフだよと思ったが、そんなこと初対面の人間に言えなかった。
 「あ、すみません。てっきり宇宙人かと思ったら、人間だったから…すみません。」
 「もしかして、君も宇宙との交信を…?」
 「え?そうですけど、あなたも…?」
 「ええ」
 なんとも言えない気まずい空気が流れた。宇宙人との交信なんていう馬鹿馬鹿しい行為をしている地球人が今ここで巡り合ってしまったのだ。
 「すみませんホント。では、失礼し─」
 「あ、待って。…いつからですか?」
 「え?」
 「その、宇宙との交信は」
 「あー、そうですね…中一の頃からですかね…ハハ。」
 「へぇ、早いですね…」
 「早い?」
 「僕は中二の頃なんで…」
 「中二…そうなんですね。」
 思わず、話を続けてしまったが、これが限界であった。僕はこの出会いに縁を感じていた。
 「あのー、もしよかったら、これからは僕と交信しませんか?」
 「え?」
 「地球人ですみませんけど…そのー会話の練習相手が欲しくて」
 「…まあ僕なんかでよければ。」
 「じゃあ、明日またこの時間に。」
 「はあ…」

 相手は全然乗り気ではなさそうだったが、次の日の夜、約束の時間にまた発信機に向かって呼びかけた。
 「あーもしもし」
 「・・・」
 「聞こえてますか?」
 「…どうも」
 「えっ」
 「え?」
 意外にも返事がきて、驚いてしまった。
 「あ、どうも。」
 「今、返事がきて驚きました?」
 「えっ、いや…」
 「本当はかけようか迷ったんですけど、自分以外に宇宙交信している人なんて初めて会って、なんか嬉しくて…もっと話したいなって思ったんですよね。」
 「…」
 「ハハこんなこと言われても迷惑ですよね。」
 「いや、そんなこと!僕も全く同じ考えで、だから昨日無理やり約束したんだし…アハハなんか照れるけど、嬉しいな。」

 僕たちは顔も知らない赤の他人だが、それがなんだか居心地が良くて、なんでもない話、ちょっぴり大切な相談事なんかもするような仲になった。



 しかし、交信は突然途切れてしまった…。
 君からの最後の声が途絶えたあれから何年の時が経っただろう。
 今でも覚えている君の声、話したこと…でもどんな顔かは知らない。
 どこかで縁があるのなら、またもう一度君と話せたらと、今でも時々君のことを思い出す。

6/27/2025, 2:58:59 PM