かたいなか

Open App

「『鐘の音』は8月に書いた」
当時は「風鈴」で書いたわな。某所在住物書きはベッドに寝転がり、右脚の付け根の痛みに耐えながらスマホをポンポン。
捻挫と思われる。足首は経験済みだが、その時の痛み方によく似ている。
なにより動いて悪化したあたりが、もう、もう。

「にしても、昨日は『ぼっち』だろ、今日は『ベル』だろ。あきらかに、クリスマス意識してるよな」
これは24日か25日、あるいは双方どちらも、クリスマスに関するお題が来ることだろう。
物書きは予測し、しかし特にネタも浮かばず……
「……ねんざいたい」
今インターホン、ドアベルの音が鳴ったら、自分はどうすれば良いだろう。

――――――

最近最近の都内某所、夜。
平日ながら、買い物客でにぎわう商店街。
ショーウィンドウに並ぶフェイクフラワーの中に、キク科モチーフの何かを見つけた「自称人間嫌いの捻くれ者」の藤森は、
店を通り過ぎて4歩あたりで、不意に心が跳ねた。
「あっ」

そういえば、最近「あの店」に行っていない。
己のアパートの近所で、稲荷神社のすぐ近く。看板狐の居る茶葉屋。日本茶の他にも、ハーブティーや紅茶、台湾茶等々、幅広いラインナップのそこ。
そうだ。最後に行ったのはいつであったか。
藤森はふと気付き、店へ向かった。

明日から2日間、予報では気温が低くなる。
ジンジャーの効いたカモミールでも貰えば、体を温めるのに役立つかもしれない。
なにより、12月22日は冬至だ。限定品のゆず餅を、追加で購入するのも良いだろう。
と、思っていたのだが。
「なんだ。お前、来ていたのか」

チリンチリン。
扉を押し開き、店内に入れば、ドアベルの可愛いげな高音が、客の来訪に揺れる。
そうそう大きいでもない店内、商品棚の一角に、藤森は見知った女性を発見した。
「先輩だ」
先に定時で帰ったと思った彼女は、どうやらここで、寄り道をしていたらしい。

「なんか、呟きックス死んでたでしょ?」
商品棚に並んだ缶に興味を戻して、後輩が言った。
「また不具った時のために、ひとつくらい、時間つぶしとリラックス用に。みたいな」
香りと茶葉の状態を示すサンプル、複数並んだうちのひとつを手にとって、フタを開け、鼻を近づける。
好ましかったらしい。唇が嬉しそうにつり上がった。
「そうか」
ぽつり。
適当に返した藤森は、人差し指で商品名をなぞり、
目当てのカモミールティーのティーバッグ、それからその上の、ハチミツの小瓶を手繰った。

「先輩のそれ、なに?」
「カモミールと、ジンジャーの。これから寒くなるだろう。それで」
「カモミールとジンジャー、寒さに効くの?」
「ジンジャーは効くだろう?生姜だから」
「あー、はい。納得」

ところで「例の件」、締め切り注意しろよ。
後輩の肩をポンポン叩き、棚から離れる藤森。
他にもいくつか品を拾って、店主の待つ店の奥へ。
後輩は後輩で、
数秒フリーズした後、ぎこちなく、スマホを取り出しスケジュール機能を呼び出していた。

アレ、その締め切り、いつだったっけ……?

12/21/2023, 8:10:34 AM