白眼野 りゅー

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「私たち、いがみ合うのはこれで最後にしましょう」

 君にそう言われて、ああやっと理解してくれたのか、と思った。


【喧嘩はこれで最後にしよう】


「そうだね。まあ僕にも悪いところがなかったとは言わないよ。ここで手打ちにして、またお互い仲良くやっていこう」

 と、僕が差し出した右手を君は不思議そうに見つめる。

「どうしたの? 仲直りの握手だよ」

 僕は少し苛立った。付き合い始めてから、喧嘩の絶えなかった僕ら。君は一度言い出したら聞かない性格で、僕が何を言っても自分の意見を曲げたがらなかった。

 「いがみ合いは最後にしよう」なんて言うから、ようやく僕といがみ合うなんて不毛で、僕の言う通りにしていれば間違いないと気付いたんだと思った。それなのに。

「何を勘違いしているの? 私は、『いがみ合いをするような関係は、これで最後にしましょう』と言ったの」

 毎日小さいことから大きいことまでいちいちいがみ合うこの関係の、最後。……それは。

「それはつまり、いがみ合う関係はやめて、仲良しのカップルになろうって意味だよね」
「……」
「…………まさか、最後って、全部終わらせようって意味じゃないよね?」

 否定疑問文が、怯えの色を帯びて口から溢れる。君はゆっくりと顔を上げ、首をかしげ

「どっちだと思う?」

 と、微笑んだ。

「……冗談はやめてくれよ」

 と、怯えの色が抜けないままの声音で僕は言う。

「そう、冗談」

 微笑みを崩さず、君は言う。「なんだ」と、恐怖が安堵で塗り替えられそうになった時、

「だって、どっちでも同じじゃない」

 と、色のない声に貫かれた。

「君の言う『仲良しのカップル』って、私が自己主張せず、君の後ろを歩くことでしょう? そんなの、私と別れて人形と付き合うのと、何が違うの?」

 君の目はまさしく人形のそれみたいに無機物的な光り方をしていて、ああ、本当にこれで最後なんだ、と思った。

5/28/2025, 9:37:47 AM