「手が冷たい人は心が暖かいんだって」
俺の手を暖めるように包み込んだ彼女はそんなことを言う。
「それは俺の手があまりにも温もらない皮肉か?」
「なんでそういうひねくれたこというかなぁ。優しい幼なじみに対する賛辞だよ」
「嘘くせぇ」
「ほんとだよぉ。だって、✕✕は私が先生に当てられる前に起こしてくれたり、忘れ物があれば貸してくれたり、失くしたものがあれば一緒に探してくれたり」
あれもこれもと過去のやりとりを指折って言いはじめる。羅列する内容には俺が憶えていないようなことまであった。
「てめぇがおっちょこちょいなだけだろ」
「ひっどーい」
「相変わらず、仲良いね」
その声に先ほど繋がれていた手がほどけ、彼女は声の主へと駆けていく。
「先輩!」
俺と彼女の部活の先輩。一つ上の彼は優等生を絵に描いたような優男。見た目通り、彼は生徒会長をやっている。そして、彼女の恋人。
「じゃあ、私先に行くね」
「へーへー」
彼女は俺を置いていく。さっきまで俺と繋いでいた手は恋人と繋がれている。俺とは到底やることのない恋人繋ぎだ。
わざとペースを落とし、マフラーに顔を埋める。
「心が暖かい人な······」
ありえない、と鼻で笑う。
心が暖かい人ならば、さっさと別れてしまえ、という呪詛を唱えやしないのだから。
12/9/2025, 11:14:43 AM