『月に願いを』
「お月さまにはね、うさぎさんがいるんだよ!」
屈託のない笑顔でそう言うあの子の頭を、ぽんぽんと優しく撫でたのは、いつのことだったか。
あの柔らかな髪の感触と、私の手に収まってしまうほど、小さな頭の形を、今でも覚えている。
「大きくなったら、お月さまにいるうさぎさんに、会いに行くの!」
無邪気なあの子の未来は、ずっと続くと思っていた。
もし、本当に月に兎がいるのなら、あの子を連れ去ってしまったのですか?
会いたいと言っていたあの子を、迎えに来てしまったのですか?
綺麗な円を描く大きな月に、「あの子を還して」と、何度も何度も強く願った。
5/27/2024, 6:40:23 AM