寂しさ
保険のおばさんが定年を前に退職された。うまく保険に勧誘されただけじゃないかと言われるかもしれない。でも、私はその方の人柄が好ましく、信頼できると感じたから契約をした。
新卒入社した会社は、事務員を除き、40代以上の既婚男性ばかりだった。事務員が寿退職してから女性は私ひとり、話が合う人もいないし、社会人には一応なれたものの、世間離れしていくことを内心では危うんでいた。
それでも10年腰を据えたのは、その仕事が好きだからではない。他に自分のできることがあるのか、マナーも常識も知らないことが多すぎて、恥をかくことを恐れていた。
定期的な契約内容の確認と同時に、情報冊子を持って来てくれた。ちょっとしたお菓子やタオル、カレンダーを持って来て、職場にいる全員と顔を合わせてご挨拶をされていた。目上の人、経営者の心を掴むのはそういった積み重ねがあってこそ。契約してくれる人しか相手にしないとかだと、会社や職場へ出入りしにくくなる。
時には湯呑の漂白までしてくれていた。頼んでなくても気づいたことをやって行く。人によっては勝手に触られると嫌なのかもしれないが、私は茶渋だらけの湯呑は気にならないから、漂白をどうやってやるのかすら知らなかった。
世間知らずが転職することになり、その時々で気にかけてくれた。ビジネストークだったかもしれないが、ゆっくり焦らず仕事を探せばいいと前向きに気持ちを切り替えられたのも、そういった気遣いのおかげだった。
別の方に引き継がれ、アフターフォローはしてもらえるが、親しみのある方がいなくなるのは寂しい。
12/20/2022, 10:04:08 AM