赤いヘッドホン

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こんな夢を見た。
見覚えのない住宅街。美しい星空。白い息を吐きながら立つ自分。辺りに人の気配はない。
____電柱。上方には光に群がる羽虫。側面にはこども110番の家、と書かれた旗。今度は足元を見る。乾いたアスファルト。辺り一面ムラなく真っ黒できれい。マンホール。雨でも降っていたのだろうか、溝に水が残っている。

………目覚めてから気付いた。この夢はおかしな事ばかり起こっている。電柱は街灯じゃない。だから電柱を見上げても、その横に何らかの明かりがない限りは電柱の上方で光るものは無いし、当然そこに虫が群がることもない。そもそも、白い息が吐けるほど寒いなら虫は現れないと思うのだが…。そしてこども110番の家の旗は、対象の家を示すものであって、電柱に貼るものではない。張り紙じゃあないんだから…。マンホールが濡れていてアスファルトは乾いているなんて、自然現象の作用では有り得ない。一面真っ黒って…住宅街の広い道は路側帯などが白線で描かれているだろうからそんな場所があるとは思えない。その上、住宅街の道路なんて鳥のフンやポイ捨てされたタバコなどが落ちているものではないだろうか。
…とまあ、そんなことがあっても、目覚めるまで全く疑問を抱かないのが夢なのだ。

きっと誰かにこんなことを話せば、夢ってそんなもんだろう、と一蹴されるだろう。確かにその通りだ。以前どこかで聞いた話によると、人間の脳は、眠っている間に記憶の整理を行うらしい。その最中に引っ張り出された記憶と最近の記憶が混ざってこんなおかしな夢を見たのだろうか。
カーテン越しに朝日を浴びながら、布団にくるまったままぼんやりとそんなことを考えた。ふと手に取ったスマホの黒い画面に映った自分の髪は…爆発していた。最悪だ。

ニ○リで買った遮光カーテンを開け、少しだけ日向ぼっこ。このまま放置すれば布団はおひさまの匂いになるだろうか。なんて考えながら立ち上がって朝食の準備をすることにした。トースターから食パンを出し皿に乗せ、机に運ぶ。こんがり焼けている。隣にコップを置いて、いただきます。
ちなみに自分はマンションで一人暮らしをしている。だから先述のようなことがあってもすぐに話せる相手がいない。正直ちょっと寂しい。が、これはこれで快適だ。

洗面所で顔を洗い歯を磨き髪を軽く整える。習慣化すると手早く済ませられるようになって、ちょっと気分が良くなる。特に髪は、手櫛で十分きれいに整うので楽だ。今日もいつも通りこれらを一瞬で済ませ、服を着替える。そして、玄関のドアを開けて「いってきまーす」と言うと「いってらっしゃい」と奥の部屋から母の声がした。
そういえばもうすぐ母の誕生日だ。今年のプレゼントは何にしようか。もう社会人だし、ちょっと高級な……そうだ、メガネとかどうだろう。

……玄関で長考してしまった。これでは、いってきます詐欺だ。何だそれ。自分にツッコミを入れながらドアを開け、鍵をかけ、家を出る。ドアの向こうには、きれいと思えるほど真っ黒なアスファルトが、辺り一面に広がっていた。
…デジャブ。つい最近どこかで見たような。

「あ」

_____自分は、そこでやっと気付いた。

1/23/2023, 12:23:40 PM