たつみ暁

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あと一年したら、あの子が来る。
彼を籠絡して、私を悪役令嬢に仕立て上げ、一生をかけても償えない冤罪を被せて、彼から婚約破棄を言い渡させて、北の牢獄に閉ざす、この物語のヒロインが。

転生したと気づいた時から、どうにか運命を避けようとした。
良い子に振る舞い、周囲に優しく、将来の国母として恥ずかしくない行いを。
それでも、物語の強制力か。母は病で亡くなり、父は宰相として野心を抱き傲岸に振る舞う。周りは私に媚びへつらい、本当の友達なんていない。

「どうしたんだい?」
やわらかい笑顔を向ける彼も、一年後には冷たい仮面しか私に見せなくなる。知っているから、黙って微笑み首を横に振る。

そう、すべてを諦めていたのに。

「お会いしたかったんですううう!!」

一年後、あの子はデビュタントで他の男に目もくれず、私めがけて走ってきて、がばりと飛びついた。
「その美しさ、強さ、聡明さに、アタシは、アタシはあああ!!」
とりあえず落ち着けとなだめても、その子は推しに出会ったオタクみたいなテンションでまくしたてる。

「大好きです! 貴女と幸せになりたいんです!!」

ああ。なんてことだろう。
もし神がいるならば、このまま時間を止めて。

お題:時間よ止まれ/たつみ暁

2/17/2025, 3:40:56 AM