海月 時

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「ありがとう。」
彼女が言った言葉だ。僕は滲み出る後悔を噛み締めた。

「死ぬまでにしたい事〜。」
突然の彼女の言葉。僕はその言葉を聞いて、察した。僕は歪む視界を堪えながら、笑顔を作った。
「何がしたいの?」
「駆け落ちしよ?」
突拍子もない事を言う彼女。僕の顔が綻ぶ。
「どこに逃げよっか。」
僕の言葉を聞いて、彼女が満面の笑みになった。僕達はすぐに、財布とスマホを持って部屋を出た。

「結構遠くまで来たね〜。」
電車片道8時間。それまで黙っていた彼女が口を開く。
「気付いてるんでしょ?病気の事。」
今度は僕が黙ってしまった。気付きたくなかった。彼女の死が近づいている事に。二人の間には重い空気が流れた。
「僕に出来る事があれば、何でも言ってよ。何でもするからさ。だから、死なないで。」
自分でも驚くほどに、弱々しい声だった。彼女は、困った笑顔を見せた。何かを言おうとした次の瞬間、彼女が地面に倒れた。僕は、慌てて彼女の元へ駆け寄った。彼女は、真っ青な顔で笑った。
「大丈夫だよ。もう思い残す事もないし。我儘たくさん聞いてくれて、ありがとうね。」
それが、彼女が話した最後の言葉だった。

彼女の死から数年。僕はまだ、立ち直れていない。あの時僕が彼女を連れ出さなければ。すぐに救急車を呼べたら。後悔が募っていく。それでも、日は昇り世界は回る。どんなに辛くても、死ぬ事はできない。それが僕の罰だから。僕は今日も、人生という名の終われない旅する。

5/30/2024, 3:01:03 PM