華音

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カレンダー

 1日、2日、3日。日が過ぎていく度にバツがつけられていく。しかしそれは、自分を追い詰めていくための印では無い。
 待ち遠しい日までの、カウントダウンだ。あと数日経てば、君に会える。
 君とは、家までがすごく遠くて、簡単に行ける距離では無い。学校の教室で会うあの瞬間だけが僕にとっての楽しみだった。
 だがお互い学校を卒業し、各々の道へ進み始め、会うことが難しくなった。
 たまに電話で話したりすることはあるが……電話越しから聞こえる声と直接聞く声は、全然違くて。
 余計、会いたくなる気持ちが加速するだけだった。
 この日なら空いてる。そう言われて僕もスマホのスケジュール機能を開く。その時の空白ほど、喜ばしいものはなかった。
 それから、その日のためにたくさんのことを決めた。待ち合わせ場所、時間、どこへ行くか、何をするか。
 電話越しから聞こえる楽しそうな声。僕も思わず綻んでしまう。
 会えるまで1ヶ月。2週間。1週間。3日前。
 その日までの日付を見るために、何回ペンでばつをつけただろう。
 でも、あと少し。僕はあと何個か隣にある数字の配列を指で少し撫でた。
 途端、スマホから着信音が聞こえる。
 この時間帯にかけてくるのは、君だけだ。窓の外を除けば、もう空が赤く染まり初めて来ていた。
 僕は、そっと電話をとる。いつものように「もしもし」と話し始める。
 あと少しだね、可愛い服着ていくね。楽しみだね。優しくて、でも幼さも混じった声がスピーカーから流れてくる。
 僕も、同じ気持ちだ。そうだねと頷く。そこから、他愛もない話を続けた。
 やがて、話を切り上げるとなった時、彼女は言った。
 「遊ぶの終わったら、楽しかったこと共有しようね。」
 僕はハッとした。今まで遊ぶ当日だけを楽しみにしていたが、終わったあとのことを、考えてなかった。
 僕は、待ち遠しい数字の右隣りの数字も見る。
 そうか、この日から楽しかったことを共有できる。今までのことも、これからの事も。
 そうだね、僕は噛み締めるようにそう告げた。
 待ち遠しい日まであと2日。新しい幸せを共有できるまであと3日。
 また、新しい楽しみが、しかも2日連続で来る。
 

9/12/2023, 7:24:58 AM