ミミッキュ

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"桜散る"

 午後は休みなので、久しぶりに時計塔の所に行こうとハナを連れて時計塔がある公園へ向かうと、沢山の桜の木があり、その殆どが満開だった。
 舞い散る桜のトンネルの中を歩いていると、ハナが花弁にじゃれついてクルクルと回りだした。
 全く疲れを見せることなく、無数に舞い散る花弁を捕まえようと必死に動き回る。
「お前、本当体力オバケ……」
 避妊手術を無事終えた後、十日程はエリザベスカラーを付けなくてはならず、今も付けている。
 そんなハンデを諸共せず、閉院している朝や夜中は院内を元気に歩き回る。
 傷口が開いてしまう可能性があるので猫じゃらしはしばらく封印したが、その代わりとして蹴りぐるみを与え、気に入ってくれるか心配だったが杞憂に終わり、暇さえあれば蹴りぐるみをサンドバッグに蹴りを連発している。
 そんな体力有り余っている子猫が、面白いおもちゃを見つけたのだ。こりゃあハナが満足するまで、しばらくは帰れない。
 少し移動して、近くのベンチに座った。
 ネットでこの公園の事を調べると、ここは桜の名所でもあるらしい。
 確かに綺麗な桜を見ながら散歩するのは気持ちが良い。それだけではなく、この公園自体も実は有名で、メルヘンチックな雰囲気の時計塔に広々とした芝生、花壇に咲く季節ごとの花。こんな所を散歩したがるのも頷ける。
「みゃあ」
 足元から鳴き声が聞こえて視線を下げると、ハナがベンチに乗り上げてきた。組んでいた足を解いて内股にすると、膝の上に乗って喉を鳴らしながら太腿をこねる。
 ふとエリザベスカラーの中を覗き見ると、桜の花弁が何枚も入っていた。「ふっ」と笑いながらハナの背を撫でる。
「楽しかったか?」
「みゃあん」
 喉を鳴らしながら鳴いて答える。
「そりゃ良かった」
 そう言うと、身体を丸くして膝の上で休み始める。程なくして、寝息が聞こえてきた。
──やっぱり疲れたのか。ハナが起きるまで待っていよう。
 顔を上げて桜を見る。春の柔らかな風が頬を撫でると、また桜の花弁が舞い上がった。

4/17/2024, 1:12:27 PM