-ゆずぽんず-

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大好きな恋人とすごく毎日はとても刺激的で、仕事におわれる私には何よりもの癒しだった。ため息を吐きながらアパートの共用階段をのそりのそりと踏みしめていく。玄関の鍵を開けると合鍵を渡していた恋人が、私に連絡なくサプライズで訪ねてきていた。どれだけ嬉しかっただろう、距離離れた恋人には会いたくてもなかなか会えなかった。込み上げてくる想い、溢れてくる愛おしさからいつまでも抱きしめて離れなかった。

私の恋人は強い香りを嫌うから、タバコを吸う私に対して臭いからではなく身体に悪いからやめようといつも声をかける。そして、外での職人仕事だからとてもよく汗をかく私は「AXE」のスプレーを愛用していたことにも触れる。汗の臭いの正しいケアはシャワーの後や、細めな着替えや汗の拭き取りだよと教えてくれた。そんな恋人は自身も身体や汗のケアを良くしていた。だから香りものは一切使わなかった。
落ち着いていて大人な振る舞いをしていた恋人を初めて見た時、私は同い年くらいだと思っていた。だから声をかけてアプローチを続けた。そして告白をする前に一線を超えてしまったが、告白した時に五歳も年下だと知った。だけれども、歳を知っても恋人を子供っぽいなと思うことはなかった。口にする言葉や考え方、人への接し方や態度は見習わなければと思うほど確りしていた。甘えたいときには全力で甘えてくれる姿に、愛されていること信頼されていることを感じて満たされていた。同じように私も甘えたい時は全力で甘えていた。恥も外聞もプライドもない、ただ恋人に全てをさらけ出していた。
恋人は少し高いヘアケア商品を愛用していた。訊けば頭皮に負担をかける成分が使われておらず、そして香りも優しく自然と馴染むから選んだのだという。この商品は恋人の匂いそのものだった。もちろんスキンケアやボディケアにもこだわっていた恋人は、微香性の柔らかな香りを纏うクリームをいつも塗っていた。全身から香る恋人の香りに包まれる瞬間はいつも幸せで、どこか心から安心できた。気がつけば私も恋人に倣ってケアを始めていた。その香りに「この匂い優しくて、あなたに合っていて好き」と頬を寄せてくる恋人が堪らなく愛らしかった。


私の不甲斐なさから恋人に別れを告げられてしまったけれど、数年の後に結婚をしたと聞いたけれど、私はいつまでもあなたの幸せだけを願っています。

そして今、香水に詳しい年長者からの施しを受けて、私に合う香水をほんの少しだけつけている。そう、目立たず場を乱さない程度に。

あなたと過ごした日々の甘い記憶は、この香水を嗅ぐ度、フレッシュでウッディな香り共に別れを告げる。

8/30/2024, 10:35:38 AM