高らかに鈴の音が響く。
星々瞬く夜空を駆けるのは橇を引くトナカイたち、そして橇の上でトナカイたちの手綱を引くのは、白い縁取りの赤い衣装に身を包んだXだ。
私――『こちら側』からすれば季節はずれで、なおかつ物語の中でしかありえない光景も、少し位相のずれた『異界』なら「本当に起こりうる」ことであって。
腰を痛めたサンタクロースに代わり、その役目を請け負った親切なXは、初めてとは思えぬ手綱さばきでトナカイたちを駆り立て、橇を虚空に走らせていた。
橇の上いっぱいに積まれたプレゼントの配り先はトナカイたちが知っている、らしいけれど、本当だろうか?
私はついそう思わずにはいられないが、Xに迷いはないだろう。愚直なまでに言葉通りに与えられた役目をこなす、それがXのあり方であり、彼の美徳でもあったから。
――『異界』。
ここではないいずこか、此岸に対する彼岸、伝承の土地におとぎの国、もしくは、いくつも存在し得るといわれる並行世界。
我々は今日も、「生きた探査機」死刑囚Xの目を通して、『異界』を観測する。
Xの視界を映すディスプレイには、やがて子供たちの眠る街が見えてくる。
あちこちに灯るあたたかな明かりが、夜空の星々に負けず煌めいていた。
20250222 「夜空を駆ける」
2/21/2025, 10:13:19 PM