名無し

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あんたはいつだってそうだったよね。

人との衝突を恐れて、言い合うことを良いこととしなくて

俺はいつだって喧嘩したいって思っていたのに。

思い出されるのは、あの夏の日。

やけに蝉の声が響いていて、道楽を求めた老若男女がとある公園に押し詰められていた。

そっちでは手を繋ぐカップルが
あっちでは男女数人のグループが笑い合っていた。

俺は相変わらずお前の隣に並べず、かと言って真後ろにも並びたくはなく、斜め後ろを歩いていた。

時折俺の方を向いては、イカ焼きを買いたいだの、りんご飴を買いたいだの、あんたはそれなりに今日を楽しんでいるようにみえていた。

そのうちに、爆音と共に、観衆の注目は夜空へと集まる。
どうしてこうも日本人は花火を好む傾向にあるんだろ、なんてぼーっと考えていた。

気づけば、先程までの喧騒は形を鎮め、川の辺に着いていたようだ。バカでかい重低音が地面を揺らしていた。特大スターマインは打ち上がっては、すぐ夜空に溶けていく。

冒頭でも言ったように、こいつは人に嫌われることに人一倍敏感だ。日本人はそんな人ばっかなんだっけ。

きっとあの一言すら言うのを躊躇っているんだよな。

だから、あんたが言ってしまう前に、さよならを告げてしまう前に

「……来年も来ような……。」

俺は、あんたとは真逆の人間だ。だって人からの評価は大して気にならないし、いつだって大切な人とはぶつかり合って理解しあいたいと思っているし。

ただ、そんな価値観すらぶっ壊されるほど、あんたに惚れているのも事実。

臆病な俺達は、さよならを言う前に、逃げ出す。
闇夜の逃避行を繰り返した。

8/20/2024, 11:28:15 PM